tuttle

地獄愛のtuttleのレビュー・感想・評価

地獄愛(2014年製作の映画)
5.0
ファブリス・ドゥ・ヴェルツといえば目!眼!め!の演出。
深淵を映す代わりに深淵からこちらを覗き込む眼。
前作から10年経ち一層濃厚さを増した作風でこちらを見返し、余白を許さない99%の画面掌握率でこの世界の中心であるカップル、グロリアとミシェルを映す。

ジゴロであることが知られてしまったミシェルが語るのは、慰み者としてしか母に愛されなかった幼少期。
経験だけで学もなく、ただ女を喜ばせる方法に長けたミシェルは「君は?」と問う。グロリアは「私は夫と別れた」それだけ答える。
ここで大切なのが、ミシェルは母親との近親相姦に対し否定的ではないこと。
性的虐待を受けていた自覚が無いことを「捨てられた」という表現や、性的嗜好を映したワンシーンが物語り、むしろ性行為の中で母性からくる愛情を一身に受けたかったきらいさえある。
ミシェルと母の関係は彼の人生を決定付けるものであり、最期の恋人との関係の原型でもある。
自分だけを選び、激しく身体を求め、ありのままを受け入れ、支配欲でその身を掴んで離さないグロリアは、母親と対極かつ同一の存在であり、おそらく幼いミシェルの思い描いた理想。
しかし、ミシェルにとって母親は母親であり恋人では無い。

一方グロリアは、夫との思い出の写真をメチャクチャに傷つけるも手放すことはできない点を見ても、慎ましやかな態度で深い愛情と憎悪を内に秘めた情熱的な女。
過去を明言しないグロリアは、何が女をそこまでさせるのか、爆発するように自分が注いだ愛と同等あるいはそれ以上の深い愛をミシェルに求めていく。

恋愛感情以上の運命としか表現しようのない強い繋がりで2人は共依存し、社会から孤立することで互いを確かめ合う。
無限の愛という名のもと支配し合う2人は、おそらく全く違う景色を見ている。
一方は母性を求め、もう一方は対等な愛を求めているから。
どこまで行っても全てを手に入れることは出来ず、それぞれの孤独から抜け出せない地獄のなかで、無限の愛に酔いながら到達する幕引きは究極の愛と支配のかたち。最高でした。

ベルギー闇の三部作、最後の作品は『Adoration(崇拝)』になる予定で今夏撮影開始だそうなので公開は来年ですかね。だったらいいな。
ファブリス・ドゥ・ヴェルツの最新作チャドウィック・ボーズマン主演『キングのメッセージ』はNetflixで8月上旬配信予定なので全人類みて…
tuttle

tuttle