武倉悠樹

夜が明ける前にの武倉悠樹のレビュー・感想・評価

夜が明ける前に(2014年製作の映画)
3.5
 踊らないインド映画もある。
 それはつまり、陽気に踊るだけがインドではないということだ。

 年間十万人の子どもが行方不明になる。それだけでも問題の深刻さが窺い知れるが、これがなんとボンベイと言う一都市だけの数字というから、闇の果ては深く、とてもではないが底が見えない。

 学校帰りに誘拐され娘を失った警官が、その傷を癒やすことが出来ず自責の念から、影を追い続け売られた娘が働く店へとたどり着きながらも取り戻せないと言う悪夢に苛まれ続ける話。
 場面は常に夜。それも雨が降りしきる場面が多く、ジメジメと暗く陰気なシーンが続く。その続く昏さは、人身売買の被害にあった少女たちの救いの無い日々、そして娘を奪われた夫婦の晴れることのない心境を演出するのに過剰と言っていいほど効果的。ドぎつい性描写や暴力表現こそ無い物の痛ましさは十二分に伝わる。あったら、尚、凄惨のものになっていただろう。

 現実と悪夢の境目は徐々に融解し、遂には娘を救い出し取り返す結末を迎えるのだが、それはおそらく夢の出来事。現実の世界では終ぞ夜は空けなかったのではないだろうか。

 カースト最下層出身の人間が大統領になると言うニュースも耳に新しいが、膨大な人口を抱え、経済発展のまばゆい光が強ければ強いほど、それ対して生まれる闇も深く濃いのだろう。
武倉悠樹

武倉悠樹