半兵衛

トルコ110番 悶絶くらげの半兵衛のレビュー・感想・評価

トルコ110番 悶絶くらげ(1978年製作の映画)
3.8
荒井晴彦のシニカルで大人になりきれない人間を掘り下げる作風が、トルコ…現在のソープランドで生きる人間たちの哀歌となって見ている人の心に染みる佳作に。女衒系のやくざのくせに高倉健に憧れるチンピラが、性根が優しいくせに無理にアウトローぶって生きる痛さに大部分の大人の男は共感できるはず(かくいう自分もそう)。それを原悦子に看破されてしまうとき笑ってごまかす姿の切なさよ。

お金を貯めるため風俗に入った原悦子と彼氏、女衒のチンピラ、風俗を取り仕切るやくざという三者のドラマを巧みに描き、後半の小さな波紋に結び付く展開の巧妙さに唸らされる。そして結局裏社会の現実をまさまさと見せつけられ、どうしようもなさを抱えて生きることを選択する登場人物たち。原悦子は一応彼氏たちの関係にヒビを入れたやくざの親分にささやかな復讐をするのだが、どう見ても自分が受けた傷と釣り合わないしそのときの彼女の別人のような姿といいこの世界で生きるしかない空しさが感じられてゾッとする。

風俗のテクニックをリアルに描いてエロ目的の人を満足させる一方で、その社会に生きる人間たちの生態を深く描いているのでその世界のリアルさが肌で感じられる演出が見事。監督の近藤幸彦は荒井晴彦とよくコンビを組む神代辰巳や根岸吉太郎ほどの才気はないけれど、堅実に脚本の世界を表現している印象。

ベテラン風俗嬢の片桐夕子や、やくざの親分の益富信孝といったベテランのサポートも映画を盛り上げる。あと若い頃の千葉繁によるこじらせ童貞の怪演ぶりも楽しい、押井守はこの作品のイメージからメガネを思い付いたのかしら。
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