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歓びのトスカーナのyukacafeのレビュー・感想・評価

歓びのトスカーナ(2016年製作の映画)
3.8
パオロ・ヴィルツィ監督作を鑑賞するのは「見わたす限り人生」「人間の値打ち」に続いて3本目になるが、どの作品にも共通しているのは、嫌な部分も含めた人間の本性がこれでもかとえぐり出されていることだと思う。

精神を病んでいる主人公2人を、「自分とは違う世界に生きている人達」と切り離してしまうのは簡単だが、精神病院が廃止された国イタリアで、この作品が撮られた意義を考えてみたい。療養施設を抜け出し「ほんの少しの幸せ」を求めてさまよう彼女たちは、感情の振り幅はあれどとても生き生きとしていて、普通と何ら変わりないように思えた。孤独や痛みを抱えていても、誰かの支えや救いになれるかもしれない、という視点が新しく、傷を負ってそれでも生きていくためにはどうしたら良いか、という問いへのヒントをもらったような気がした。

ベアトリーチェを演じるヴァレリア・ブルーニ・テデスキは「ブルージャスミン」のケイト・ブランシェットを彷彿とさせる狂気を、ドナテッラを演じるミカエラ・ラマッツォッティはちょっとしたことで危うく壊れてしまいそうな繊細さを見事に表現していた。2人が共鳴し合うように、それぞれの孤独や痛みを吐露する場面は、美しいヴィアレッジョの風景と相まって非常に印象的だった。

邦題は「歓びのトスカーナ」というライトなイタリア好きに訴求したものになっているのだが、原題の"La pazza gioia"は直訳すると「狂気的な喜び」、熟語になると「お祭り騒ぎ」という意味にもなるようで、この作品のテーマをダブルミーニングで表す、良く考えられたタイトルだと思う。
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