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アイスと雨音のtontonのレビュー・感想・評価

アイスと雨音(2017年製作の映画)
4.1
オーディションである演劇に選ばれた少年少女たちの三か月をオールワンカットで見せる、変わった映画。

ワンカットの中、演劇の練習と少年少女の実生活が入り乱れる構成。
それは役と役の外という単純なものではなく、時間たつごとに演劇の物語と彼らの物語が寄り添い始める。
当初、それは彼らがこの役を掴み始めた証拠なんだろうなっと思っていた。

そんな中主人公の少女だけは、役柄以上の情報があまりない。むしろ嫌々練習しているようにも見える。
だが、この公演が中止になるのが2週間前に決まったとき、誰よりも反抗したのは主人公だった。

その瞬間「無かったことになる」恐怖が頭をよぎった。
もっといえば、いなかったこと、存在していなかった事になる恐怖。
物語と実生活がリンクしていく姿は、彼らが役を掴み始めただけではない。
彼らがちゃんと生きている証なのだと、彼らが演じるはずだったそれはただ舞台上で消費されるだけの存在ではないと。
それはスクリーンを見ている私たちに向かって言っているようにも。

劇中劇・劇中の実生活に、この映画に出演する彼らという側面もそこからスクリーンに現れ疾走し始めた。

その結末へのプロセスはどこにでもある青春物の一節のような話かもしれない、だけど本当も嘘もひっくるめて彼らは走る。
もっといえば、死の臭いも微かに纏いつつ(これで役者生命が終わるかも?)
その存在の証明は誰かが見てくれるわけではないかもしれない。
それでも。
ラストシーン、舞台に立つ彼ら。
観客席には誰もいない。
雨が屋根に当たり響く雨音は鳴りやまぬ拍手のように聞こえた。

また、あいまあいまに現れ歌うMOROHAが凄い。
彼らの感情の増幅装置か、まとまらぬ感情の翻訳家か、彼らの守護天使のようか
いまや、いつでも手元にある「音楽」。それそのものがMOROHAで表現されているようで。
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