あばしぇ

心と体とのあばしぇのネタバレレビュー・内容・結末

心と体と(2017年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

2021年に見たのですが、今年のベスト候補に挙げたいくらい気に入りました。
綺麗で落ち着つかせる光とゆったりした間の使い方は勿論のこと、心と体の距離感を描く表現も見事です。また、長回しで動きが少ない「静かな映画」に終始せず、ショッキングなシーンを挟むことで集中して見続けられるアクセントも用意されています。大枠は他のレビューに任せ、以下では舞台とタイトルが作品にどう絡むか考えてみようと思います。

食肉処理工場の淡々とした解体描写についてですが、マーリアとエンドレが抱えている生きづらさと、そこから生じる「身体性の拒否感」の現れなのかなと思いました。スプラッター映画に慣れてくると、たとえ人体切断のシーンなどを見ても現実感をもって共感できない。それと同じような希薄さが工場で表現されていると言えば伝わるでしょうか。一般的な人々は体->心の順で互いのことを知り合っていくのですが、マーリアとエンドレは身体的なコンプレックスと拒否感が障害となってそれができません。二人が交差することは本来なかったでしょう。

とするなら、本作で起きた奇跡である「鹿の夢」は、その逆転現象なのではないでしょうか。
マーリアは夢の世界で心から先に交流することで、最終的に身体性の拒否感を克服したいと思い立ち、浴槽のシーンに到達します。あのシーンの痛々しさと言ったらなく、顔をしかめる人も多かったのではないでしょうか。この瞬間、身体性の希薄さはすでになく、心と体の問題が解決したことが示されています。

(「鹿の夢」は単なるバーチャルリアリティーではないという補足: 鹿の夢はコミュニケーションにおける心と体の単純な逆転現象だけではなく、「人間としてのコミュニケーション」が苦手な人たちのための「非人間に変換されたコミュニケーション」であることに注目してください。)