snowong0922

心と体とのsnowong0922のレビュー・感想・評価

心と体と(2017年製作の映画)
4.5
​「こじらせている」と人は言う。こじらせてる?そんなつもりない。いたって純粋に、まっすぐに生きてるつもり。むしろ社会の方がこじれているように見える。ああ彼女のような生き方はこじれているようにみられるんだなと映画への反応を通して感じ、やっぱりちょっと息苦しいなあ。

別に彼女は、周囲の人の心をざわつかせていることに愚鈍でいる訳ではない。人と話すとき、持ち前の観察眼で、瞬時に相手が何を考えているか気づいてる。彼女の優れた観察眼は、記憶力、塩コショウ瓶で会話中の相手の心情を振り返るシーン、嘘をついていると瞳孔で判断できるというセリフで、ちゃんと説明されている。気づくからこそ、次の言葉を言う前に忖度してしまう。でもその処理が、現実のスピードに追いつかない。レゴみたいな人形で会話の練習するシーンで涙が止まらなくなった。引く人もいるかもしれないけど、私もしてるもの。人形こそ使わないけれど、鏡の前で、頭の中で、ベッドで布団にくるまって、本当は言いたかったこと、次にあった時に伝えたいこと、なんどもリフレインさせる。でも、現実だとやっぱり目の前で起きてることに対する反射がうまくできないんだよね。

こういうタイプの人間がすがるのが、ルール。絶対的で、誰に対しても平等。「守るのがいいこと」という正義。人との会話に正解はないけど、この正義を守ることは正解に近くて安心できる。だからルールについて語るときには迷いがない。彼女の2ミリの融通の効かなさから彼女の社会での生きづらさを説明する文章も読んだけど、私は彼女はそのルールを心の拠り所、彼女がそのコミュニティに属することを肯定するものとして使っているのだと思う。コミュニケーションがうまくとれなくたって、周りにいい気持ちを提供できなくたって、ルールを守っているもの。悪いことしてないもの。だから私はここにいてよいのよね、って。

もう一つすがれるのが、今回の映画で言う「共通の夢」のような何か運命的なもの。人間関係を結ぶのは怖い。相手が何を考えているかわからないし、相手が心変わりするかもしれない。自分の一挙手一投足が相手に与える影響にも自信をもてない。でも共通の夢があるのだとしたら、運命がそこにあるのだとしたら、少し信じてもいいかもしれない、相手にもう少し迷惑をかけてもいいのかもしれない、と思える気がするの。

安心感が欲しい。だっていつも安心していないから。どこのコミュニティにおいても安住してないから。でもそういう人、孤独を感じている人だって、きっとどこかに同じ夢を見て、隣で寄り添って眠れる誰かがいるはずよって、鹿の目が、彼女の心が、教えてくれる。

どこまでが彼女の話で、どこからが私の話か、もうわからないけれど、私の心はこの映画に救われたような気持ちになり、また日常への希望を少し大きくしたのでした。

(確かに屠殺場で働いている設定の意義は特にないかもしれないけど、文明高度化により生々しい生と距離を置いた生活が成り立ってしまうこと、そこに無自覚な人が少なくないことに違和感を感じている人が多くなってきたこのタイミングで、そこにスポットライトを当てる感覚、私は好きだし真っ当だと思う。)
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