Omizu

KTのOmizuのレビュー・感想・評価

KT(2002年製作の映画)
4.0
【2002年キネマ旬報日本映画ベストテン 第3位】
『顔』阪本順治監督作品。1973年に起こった金大中拉致事件を題材にした政治サスペンス。ベルリン映画祭コンペティション部門に出品され、国内の映画賞でも主演の佐藤浩市、助演の香川照之が高く評価された。

阪本順治監督は当たり外れが大きいという印象。『顔』はよかったけど『半世界』は全然。今回は当たりの部類かな。硬派な政治サスペンスで普通によかった。

韓国人役にちゃんと当事者を起用しているのがよかったし、過度に盛り上げない落ち着いた演出が素晴らしい。

自衛隊、記者、KCIAと交錯する物語でありながらしっかりと整理をしているので見やすく、混乱することもなかった。

元自衛官としてKCIAに協力する佐藤浩市演じる富田は自我がない、空っぽな人物であり、第三者から見た視点が分かりやすかった。

KCIAのNo.2のような立ち位置の「もう一人の金さん」は貧しい生まれであることをコンプレックスに思っており、韓国の社会構造というものも透けて見える。記者を演じた原田芳雄とかもいいんだけどやはりほとんどセリフがないのに最も不気味な自衛官を演じた香川照之…これはすごいね。

整理された脚本もさることながら、阪本順治監督の演出は見事なもの。落ち着いた雰囲気ながらもキャラクター描写は濃厚。セリフではない映像的表現も素晴らしい。直接描かれている以上のことがありそうな、そんな不穏な空気感を感じさせる。

金大中のことはあまり知らなかったけれど、事件の詳細(フィクションはあるにせよ)を知ることが出来た。その意味でも観てよかった。

韓国と同時公開されたが、韓国ではあまりの不入りのためあっという間に打ち切られたという。確かに一部韓国人を日本人が演じたり、KCIAが利口に描かれているかというとそうではないのだが、知る限りではそれが事実なのだから仕方ないと思う。

阪本順治監督作品では一番ストレートによくできた作品だと思う。観ずに嫌っていてはいけないな。去年の『冬薔薇』も観なきゃ。
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