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デトロイトのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

デトロイト(2017年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

67年夏のデトロイト。権力や社会への黒人たちの不満が噴出し、暴動が発生。3日目の夜、若い黒人客で賑わうアルジェ・モーテルの一室から銃声が響く。市警や州警察、州兵らが、ピストル捜索のためモーテルに押しかけるが、数人の白人警官が捜査手順を無視して客たちを脅迫、自白を強要する不当な強制尋問を展開していく…。

キャスリン・ビグロー監督がリアリティを追求して描いた社会派実録ドラマの秀作。
悪夢のような2時間半。
鑑賞後の気分は最悪だが、それでも見るべき価値のある作品だ。

その「アルジェ・モーテル事件」とは、どんな事件だったのか?を簡単に書くと…、
暴動を鎮圧するために常駐していた警察と軍が、宿泊客がふざけて撃った陸上のスターターピストルの発砲音を「狙撃者による発砲」と勘違い。
3人の白人警官モーテルに押しかけて、いきなり黒人男性を射殺。
その後、黒人男性6人と白人女性2人を「狙撃したのは誰だ!」と暴力を交えながら、嘘の自白を強要させる人権を無視した尋問(ほぼ拷問)を実施した挙げ句、黒人男性2人を射殺。
…しただけでなく、その後、違法な取り調べと殺人を実行した3人の白人警官は、裁判の結果、無罪放免になったという酷すぎる内容。

現実のニュース映像で慣れてしまった暴動シーンよりも遥かに衝撃的なのは、この延々と続く中盤の屈辱的な強制尋問のシーン。
スターターピストルを撃ったのが発端だが、その黒人が最初に射殺されてしまい、状況が詰んでいる。
許されない人権侵害が目の前で行われている現場に、自分が立ち会っている錯覚に陥る。
延々と約40分に渡り、白人警官たちの黒人に対する暴力が描かれる。
暴行を伴う尋問シーンの間、カメラはほとんど移動しない。
「そのころ市街地では?」とか、画面が切り替わることもなく、延々別館の階段脇。
何かあれば白人警官に殴れられ、時には別室に呼ばれて殴られる。
ほとんどの時間、黒人たちは壁に両手と額を押し付けられた状態のまま。
見る側も一緒に壁に手をついて、その場にいるような気分になり、息が詰まる。
動いたらライフルで殴られるので、身動きも取れない。
凄まじい閉鎖感にどんどん気分が悪くなる。

密室で強制的に殺人ゲームを行うホラー映画があるが、本作に比べたらホラーのほうがまだ動ける分マシだ。
「選択はお前たちにはない」という警官のセリフは見る側にも強いられる。

この事件で黒人たちを殺害した白人警官3名は、彼らの自白があったにも関わらず、全員が白人の陪審員のもと全員無罪になるのが不条理の極み。

事件関与を疑われた黒人警備員のディスミュークスは、判決に気分が悪くなり嘔吐。
警官に殺されるかもしれない恐怖から、彼はデトロイトを離れる。
被害者の1人、歌手のラリーは白人の前では歌いたくないと、教会の聖歌隊へ。
理不尽な展開と報われない結末。
それが現実というモノなのかもしれないが、被害者はトラウマを抱え、加害者が無罪なのは憤りを感じずにはいられない。

暴走する白人警官のリーダー役、ウィル・ポールターのアカデミー賞級の演技がおぞましくも素晴らしい。
生まれながらの差別主義者に思えてしまう。
リアリティに拘りすぎた演出が、賞レースではマイナスに働いてしまった部分は否めない。
全く救いがなく、ひたすら重いのが、この作品の難点だ。
しかし、差別の根っこのような憎悪を感じずにはいられないし、それは現代でもさほど変わっていないという強烈なメッセージがある。

ロマンを語る男性と違い、女性は聞き上手であり、会話が上手い。
その中で本音の意見を聞き出し、本当のニーズを探る能力も女性ならではの強み。
男性監督なら、いくらかの勧善懲悪のカタルシスを入れたかもしれない。
キャスリン・ビグロー監督の女性らしい徹底したリサーチと、もはや怨念や情念とも思える怒りが表現された作品だ。
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