Masato

デトロイトのMasatoのレビュー・感想・評価

デトロイト(2017年製作の映画)
4.6

町山さん登壇の回で鑑賞

硬派な賞レース映画を作ってきたジェームズキャメロンの元妻キャスリンビグロー監督の最新作。
今作も充分に硬派な映画ではあるが、「ゼロダークサーティ」で見られたモキュメンタリーチックな無機質さはあまり感じられず、「暴動の中で起きた不当な尋問」というテーマもあってか結構ドラマチックで非常にスリラーな映画であった。ゼロダークサーティでもテロリストの攻撃タイミングが全くわからないという点でスリルがあった。その感触が今作は60分間持続するという恐ろしいことに。

デトロイトは自動車産業が盛ん"だった"地域で、今では物の見事に廃墟となっている。その廃墟になった決定的な出来事がこの「デトロイト」で描かれています。


映画自体は丁寧で分かりやすい三幕構成で非常に見ていてスッキリしていた(内容的にはどんよりだけど)。

一幕は1967年に起きた暴動の発端と全体的な状況を描いている。冒頭にデトロイトという街の経緯をアニメーションで分かりやすく説明してくれるので事前知識なしでも大雑把には理解できるようになっている。資料映像も度々挟み込んでいるので、より史実感が出ていた。

二幕には、今作で1番注目されている白人警官による不当な強制尋問シーンがやってくる。ほぼリアルタイムで60分ほど続く。このシーンだけ全く場面転換をせずにワンシチュエーション気味にシークエンスが進行していくので、緊張感がずっと持続されて徐々に胸が圧迫されていく。だからここのシーンだけ異様に浮いて注目材料になっているのだろう。本当に押し潰されそうなくらいにスリルを感じた。

三幕には不当な尋問の被害者たちと加害者たちのその後が描かれている。ここでは、映画のメッセージが事細かに現れてくる。

映像は全体的にくすんでいて、カメラが結構動き回る。各々のキャラの中にある焦燥感や緊張感、恐怖感が見事に観客に伝わってくる演出は見事としか言いようがなかった。最後の無情感はさすがビグロー監督。決して手放しでは帰らせないという気概が伝わってきた。


町山氏の受け売り(たまむすび)になってしまうが、当時のデトロイトという街は、綿花業が潰えて仕事を求めて流れ込んできた黒人たちと、出稼ぎに来た欧州系移民(白人)の二つで主に構成されていた。その二つは最初は仲良くしていたものの、次第に黒人と白人の間で貧富の差が生じていき、白人はデトロイトの郊外へと移り住んだ。対して黒人たちはそのままデトロイトの中心街に敷き詰められるように集中した。
なぜこの暴動が起こったのかというと、警官のほとんどが白人であり、黒人の街で不当な出来事を起こしていたからだ。

今作では、アルジェモーテルで起きた白人警官による不当な強制尋問をデトロイト暴動全体よりもメインに描いている。
こうした白人警官による黒人の不当な出来事は現在でも行われている。しかも、60年ほど経っていてもなんら変わっていない。最近では、フードをかぶり歩いていた黒人青年を自警気取りの白人が射殺したり、無抵抗な車椅子の黒人を複数人の白人警官が取り囲み射殺。映画「フルートベール駅で」では、黒人青年が大晦日に遊びに行った帰り、仲が悪かった白人が急に暴言をふっかけられて取っ組み合いになり、黒人だけ地面に伏せられその状態で背中を撃たれ殺害という事件も。射殺事件は大体無罪か小遣い程度の罰金と禁錮で済むようなものばかり。白人以外の人口は増えている(今6割)し、黒人の犯罪率が減っているのにも関わらず、白人優位の社会はいまだに続いている。それに限らず、ベトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタン紛争など、白人を優位とする思想が世界にも影響を及ぼしている。
そこで、キャスリンビグロー監督はこの映画を作り、今だに変わらないアメリカの負の部分を世界へと発信して自国批判をしたのだろう。ビグロー監督は自国批判という点で一貫した作家性がある。こうした腐った社会構造が一刻も早くアメリカで滅せられることを願うのみだ。

そしてもう一つ、憎しみ合っていては怒りは収まらず連鎖が続くだけ。黒人が今までに受けた差別とそのダメージは想像をはるかに超えるものであり、関わりのない私がどうこういうのもなんだが、かつてキング牧師が非暴力を訴えてモンゴメリーから行進したように、暴力に頼ってはいけない。
本作の主人公、ドラマティックズのラリーが歌い、言っていたように「愛が大事」、「憎悪の中でこそ愛が大切」なのだ。
「汝の敵を愛せよ」という聖書の一節がラストシーンで呼び起こされる。


キャスト面の力も大きかった。ジョンボイエガ、アンソニーマッキーはもちろんのこと、特に凄かったのは歌声が胸に突き刺さるラリー役のアルギースミスと憎ったらしい警官役のウィルポールター。ウィルポールターはナルニアの悪ガキの印象しかないので、もうこんなに大人になったのかと一人で感心。もっと有名になってもいいのにあまりなってないのが残念。個人的にはいろんな作品で悪役の演技を見てみたい俳優。


必見です。


追記
カールの側にいた仲間がなぜ早くスターターピストルのことを言わなかったのか。それは、不当な尋問を続ける白人警官に対抗するためであろう。そんなやつらに易々と味方を売るような行為はしなかった。それに、白人警官による差別が横行していたデトロイトで、レイシストに真実を言おうが言わまいが相手にしてくれないだろう。でまかせだ、そんなの嘘だ、とあっさり一蹴される。黒人は奴隷の歴史から結束力が強く、決して味方は裏切らなかったであろう。きっと無縁社会であるからこその理解しづらさであろう。1967年ということもあり、彼ら黒人はみんなで差別を乗り越えていくSoul Brotherだったんだよ。

客観的評価 48点
主観的評価 48点
96点
Masato

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