TaiRa

シェイプ・オブ・ウォーターのTaiRaのレビュー・感想・評価

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ギレルモ・デル・トロの全てが集約した作品。「むかしむかし…」で始まる現代の御伽噺。

冷戦時代の60年代アメリカにおいて、人として真っ当に扱われなかった障害者、黒人、ゲイなどのマイノリティたちが、人ならざるものを救おうとする。これは愛の物語であり愛欲の物語である、という事はイライザの毎朝の日課となった行為を描く事で宣言される。『パシフィック・リム』で主人公とヒロインにキスすらさせずに愛情を描いたデル・トロが、その後立て続けにセックスを描いているのも面白い。緑を基調とした世界に差し込む橙色の光や赤色の衣装が良い。この映画の中の赤はセックスと死の両方を意味している。『デビルズ・バックボーン』『パンズ・ラビリンス』『クリムゾン・ピーク』と来ての今作で、死についての定義がどんどん解放されていってる。こっちなんかよりあっちの方が良いよ、とはっきり言ってしまえるのが彼の良さ。面白かったのは、対立する相手であるマイケル・シャノンの描き込み方。明らかに人間として必要なものを持っていない男。その事にどんどん飲み込まれ腐蝕していく。主人公たち二人だけの世界ではなく、周りの人間たちの人生も具体的に感じられるのが豊かだった。

素晴らしいと思いつつもファンとして複雑な感情。ティム・バートンが『ビッグ・フィッシュ』を撮った時に似てるかも。かつて報われない青春を送っていた頃、報われないモンスター映画の哀しさに救われたりした。あの時の自分がこの幸福な映画を観たらどう感じるだろうと思いを馳せる。
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