りきまる

シェイプ・オブ・ウォーターのりきまるのレビュー・感想・評価

4.5



ワンス・アポン・ア・タイム・イン……ウォーター -制約の中で生きること・愛を貫くこと-

 

設定と想像(創造)力の勝利だと思う。「怪獣映画」ではなく、限りなく純粋で透き通った「ラヴ・ストーリー」である。

我々がどう見ても簡単には親近感が沸いてこない異形のクリーチャーに、なぜ主人公のイライザは心惹かれていったのか?鑑賞以前の謎は、なるほど、冒頭から順を追っていけばその理由を痛いほど感じられる。ありきたりだが、美男美女同士のラヴ・ストーリーに共感を覚える人はそうはいないだろう。お互いに何か特殊な事情を抱え、「充たされざる」者だから、彼らの心が通い合う瞬間に至上の喜びや充足感を感じるのだろう。
 
 物語の舞台が1962年の冷戦下のアメリカ政府の秘密の研究所である点に説得力がある。
 世界が資本主義陣営(西)vs社会主義陣営(東)のイデオロギーの対立の時代(=冷戦)である。

 半魚人というイデオロギーを超越した存在と、国家間の競争が高まる時代に「女性・身体障害あり(発声できない)・最低権の雇用が保証された状況」という限りなく底辺に近い主人公、その主人公が半魚人を守るために、国境の壁を打ち破ってくれるような「共闘」のシーンがあるから胸が高まる。共感ができる。
 コミュニケーションという面で見ても主人公は「手話」。半魚人は言葉にならない言葉を発するのみ。
 お互いのコミュニケーションの様子はまさに言葉が生まれる前の、五感を通して行われる。五感の要素がすべて組み込まれているので必見。
 彼らのコミュニケーションに心が惹かれていくのは、我々が日々極上の喜びを感じるほどの心の交流がないからだろう。
 主人公と敵(同じ研究所に着任した、半魚人の解剖を強く要求する博士)との関係や構図は以下のとおりだろう。

 「持て余す者(満たされざる者)」の限りない欲求(ストリックランド)=天井知らずの俗世の煩悩
          対 
「持たざる者」の細やかな願い(イライザ)=半魚人と結ばれたいという、純粋で唯一無二の純粋な愛情

 この構図は考えさせられる。

 「おとな」のおとぎ話なので、未成年には大変刺激の強いシーンが多く、危うくR-18指定での公開になるところだったそうで。カップルのデートで本作を鑑賞すると、お互いに深く考えさせられるものもあるでしょう。
 正直、もう1回観たい。

 【追記】第90回米アカデミー賞最優秀作品賞他4部門獲得おめでとうございます。ギレルモ・デル・トロ監督に惜しみない祝福を!
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