Jean

シェイプ・オブ・ウォーターのJeanのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

2018.03.09  字幕視聴


   愛はどんな形をしていて、
   人はどれだけ愛のために
人生を捧げられるだろう


【愛とコンプレックス】

イライザの首の傷がエラになるシーンは
愛によってコンプレックスが
生まれ変わった様子を描いているように見えた

彼女にとって、
声が出せないこと
話せないこと
首に傷があることは
コンプレックスでしかなくて
自分が周りと違うことを
決定づかせるものでしかなかった

彼女には“声”というものがなかったけれども、
その代わりに誰よりも言葉や見た目の表面的なものに
惑わされなかったのだと思う

話せない変わりに手話と卵と音楽を…
普通と呼ばれる人とは違う変わりに
自分と一緒にいる時の彼をただひたすらに知ろうと努める

そして、奪われたものに
命を与え、声という形を与えた
彼は彼女を解放させたのだ

神秘的な存在の彼だからと言ってしまえば
それまでなのかもしれないけど
それはあくまでも観客に提示するために形作った
監督の想いでありメッセージなのだ

自分の隠したくて、汚らわしく思っていたコンプレックスを
そんなことを気にしない誰かが
自分の存在に気づき
心開き、その部分を含めた自分を愛してくれた時、
初めて自分は解放されていく




【象れない愛の美しさ】

人は物事をすぐにカテゴリーにしたり、
名前をつけたがる

ストレート
ゲイ、
バイ
トランスジェンダー
異性愛
同性愛…
とかなんとか

そして名前を付けた後は、必ずそれが
正しいか正しくないか
正義か悪か
普通か普通じゃないか

そういった枠・形を作りたがる


ここ最近思うのが
“愛”って事柄に形なんてあるのだろうか ということ


私の友人にバイ(両性愛者)がいて、
性同一性障害(心は男、体は女)の恋人が
彼女にはいる


そんな友人に彼女自身がバイであること、
その恋人について聞いた際の会話が
今でも印象的だった

友人「驚いたでしょう」
私 「まあそうだね、知らなかったからね」
友人「私たちの普通じゃないの。私たちの愛はいびつなの」
私 「…そうなのかな?
私には愛に形なんてないと思うから
   いびつ、いびつじゃないとかって
考えたことがない」

何故だか友人は私の言葉に対して
反応を見せなかった

この映画の上映中、
そんなことを思い出しつつ見ていた

愛に形があるなら、それは監督の言うように
水というのが1番、近かいのかもしれない

様々な形に変化し、
時には目に見れる水として
またある時は
目に見えない水蒸気のように

形があってないような 水に愛の形は似ている

当事者たちの愛がいびつかや
普通と違うかどうかは
他人の勝手で無責任な意見であるに違いなく、

自分と愛してくれる人の間に
“美しい愛”が1つあればいいじゃないか!
なーんて思う

そんなイライザとクリーチャーの愛は
まるで水のよう
海のように壮大で包み込まれたみたいに

ふたりで愛を象れば
それが真の愛の形になるんじゃないだろうか
そんなことを思うこの頃




【永遠を感じる愛】
自分が今まで感想を書いてきた作品の中で
この作品は差別や愛のあり方といった
色々な主題を盛り込んでいたように思う

映画『聲の形』『僕と世界の方程式』『ペネロピ』『美女と野獣』
といった作品も様々な障害を持った人との愛を描いている作品だが
本作はこれらの作品とは少し違う印象を持った

障害が時に愛を引き裂き、破滅させる一方で
永遠の愛を生み出すこともある

イライザとクリーチャーの2人の愛は
なぜだか永遠のような気がしてならない

それは私たちが無意識に持つ「普通」という概念に
とらわれてないからなのか、それともあの2人だからなのか…

まだ今はわからない



【勝手な独り言】

育まれた愛の形の形成を丁寧に丁寧に描いてほしかったー
というのが、正直なところ

知りたがりの私にはちょっと物足りなさを感じたものの
イライザの優しい言葉(手話)が
荒々しく、怒り狂った言葉
あざ笑うかのような皮肉たっぷりの言葉の数々を見ていると
手話の表現の豊かさと美しさを思い出す

映画『聲の形』の
穏やかで心に秘めた思いを持つしょうこを思い出しつつ、
本作は陽気で、時に静かで落ち着いていて、でも突然荒々しくなって
手話の違った美しさと豊かさを垣間みることができたように思う



彼女が赤い靴をはいて、
彼に会いにいくのが毎日の楽しみで
心が躍るような気持ちになるのは
見ている私のも伝染してきて
私自身心躍らせ、静かにタップしていた




【何が答えなのか】

それでは冒頭の命題に戻ろう


    愛はどんな形をしていて、
    人はどれだけ愛のために
人生を捧げられるだろう


その答えは

   時には透き通った水のように
   またある時は濁って
ドロドロとした水にもなりうる

   「誰にもわからない」

この一言につきるだろう
Jean

Jean