けーはち

機動戦士ガンダム THE ORIGIN 誕生 赤い彗星のけーはちのレビュー・感想・評価

3.8
THE ORIGIN映画シリーズ完結作。

「私に跪け、神よ‼‼」

果たしてガンダム界の神とは、初代監督・富野由悠季か、はたまた、うるさいガンダムオタクのお客様か?──いずれにしても初代作画監督である安彦良和が描く原作の下、ガンダム本編前のザビ家&ジオンの遺児たちの知られざるライフヒストリーに始まった本シリーズは、終盤につれ「年表」に従って描く歴史大河ドラマの様相を呈していき、佳作なるものの神を跪かせるほどではない。そしてアニメとして第二幕(一年戦争編)は製作される予定はないので「神のいない第二幕が始まる」というシャアの言葉は虚しく響くのみである。

前作から引き続き前半はルウム戦役での小気味良い戦闘シーン。ご存知ミノフスキー粒子という電磁波を撹乱する発明があって、長距離レーダーも通信もなくWW2初期レベルの目視戦闘をやるという設定上、艦隊も真正面からガンガンぶつかりあう。そして当然ガンダムといえばモビルスーツであり、ここが本格的な大規模MS戦の嚆矢。ジオン軍が一方的に蹂躙していくが、ここまで視点人物が全体的にジオン寄りであり、予想通りの無双ぶりに爽快感すら覚える(真空・無重力の宇宙空間で爆発した艦隊がピンク色のモワモワ爆煙に包まれるのはどうなのかと思うけど……)。

後半はレビル大将の脱出劇、「ジオンに兵なし」演説に至る「一年戦争」前夜、語るべき要所は満載でそれらを踏まえ物語をどう膨らませ、畳み込むか。地球人類の半分を死滅させながら電撃戦の快勝に酔うギレン、戦争を終わらせたいので敗将レビルを説得するデギン、地球の文化資本を巻き上げるべく戦争を続けたいキシリア&マ・クベの三者三様の思惑。長子の暴走を止めるため頼った娘も面従腹背と公王が哀れにもなる一幕はガンダムらしい同床異夢の悲しきザビ家内紛政治ドラマが効いていた(ドズルとガルマはヒロイン悪役令嬢枠)。一方で、大敗を喫しながら異例の出世を遂げるレビルの心境、連邦側の政治劇はもう少し掘り下げてみてもよかったと思う。

富野自身は絶対にやらない宇宙世紀年表穴埋め&初代ガンダム懐メロコンテンツとして、また人気キャラのシャアにスポットを当てた外伝として、無論、原作の威光あってのものだが、ハイクオリティでまとまっていて、冗長・蛇足な部分もあるものの総じて良作だったと思う。

2019年はガンダム40周年で新企画(νガンダムのプロトタイプを描くNT)や閃光のハサウェイ映画化が予定されている。懐メロコンテンツとしてのガンダムはもうちょっとだけ続くのじゃ。