浅井

ボヘミアン・ラプソディの浅井のネタバレレビュー・内容・結末

ボヘミアン・ラプソディ(2018年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

観て、2週間くらいしてどうにか感想が書けそうなので書く。
とにかく悲しかった。
悲しかったことは、フレディと、ポールのことだ。

Queenは元から好きで、よく聴いていた。リアタイ勢ではなく、むしろそれは母だった。その影響で、何かわからず聴いていたと思う。小、中学生の私には手がかりはベストアルバムに書かかれた解説しかなく(それが大変良かった記憶がある)、大人になってから他の本やサイト、ニュース、テレビ特集などを介し、定期的に訪れるフレディ不在のQueenが起こす波だけを受けて生きてきた。
で、なんとなく、残されたフレディのかけらだけで築いてしまった彼の像が私の中にある。この映画のフレディは、私の中にできた胆石のようなフレディよりも、うんと悲しかった。

事実と、その事実の意味はこうであってほしい、が混じり合っている。それがまちがいとか、それがよくないとは言わないけど、でも、こんなに悲しかったんだろうか、と思った。虚構である。虚構であるなら、もっと悲しくなくてもよかったんじゃないかと思う。虚構でないなら、こんなに美しくなくても良かったんじゃないかと思う。でも、私はブライアンやロジャーではないし、ましてやフレディでもなく、なんならポールでもないので、この映画が本当なのかどうか、違うとも、あっているとも言えない。ただ悲しい。フレディがこの通りなら悲しいし、この通りでないならそう作られたことが悲しい。(流石にライブエイドの電話のシーンはやりすぎと思うが)
ソロになっていたこと、エイズで亡くなったこと、そんなことは知っているけど、ライブの前に家族に本当に会いに行ったのか、ポールが一手に引き受けた憎まれ役はどこまで本当なのか、フレディの浮気はセクシャリティの前に棚上げされてないか……

そう、もう一つの悲しみ、ポール。ポールは確かにリークをしたのだけど、ここまでの悪行をしたのか、わからない。ポールは、簡単に言えば敵役・憎まれ役・悪役だと思う。悪役を作ることはとても簡単だし、いると話が進みやすく、起承転結がはっきりし、観客の感情移入にも大いに作用する。一緒に見た人間も、一言目には「ポールがいなければ…」と言っていた。
本当なのだろうか?いったいどこまで?
勧善懲悪の、フィクションで、エンターテイメント作品ならわかる。絶対に必要なものだ。でもこれは、まだメンバーの過半数が生きている、私達の時代のものだ。
そんな作品に、憎まれ役が必要だったのだろうか。憎まれるにしても、実在した人物に背負い込ませすぎじゃないか。
どうして、敵味方がいなくてもよかったはずの作品に、悪役が必要なのだろう。
つまり、これは、エンターテイメント作品なんだと思う。あたりまえに。でも、そうだと思う人が、どれだけいるか。何人が、「ポールさえいなければ良かったじゃん」と思って帰ったのだろう。
いま、フレディは死者だ。ポールも死者、だそうだ。フレディとポールだけのシーンが沢山ある。死者と死者の会話。わたしはフレディの像は持っていても、ポールの像は持ち合わせていなかった。だから、ポールの像を、映画のまま形作ってしまいそうになる。でも、それでよいのだろうか。
私は、Queenの話にすら、悪役を作らなければいけないことが、悲しい。


それから余談だけど、日本について言及が少なかったのも少し悲しかった。当事者ではないにせよ、日本の女子がQueenを見つけた!というキャッチーな言葉を誇りに思ってしまっている人も結構いると思う。日本好き関連のエピソードは割愛するとして、映画を見た直後は、「あー、やっぱり本人からしたら、日本ってそんなでもなかったのかな?メディアに乗せられちゃっていたなあ」と恥ずかしくなっていたのだけど、先日、NHKニュースで観たQueenのインタビューが、映画が公開されてから最初の本人出演だったと知り、やっぱり日本のことは特別だったんだ、ありがとう……と思い直したのでここに記します。
ありがとう。
浅井

浅井