叡福寺清子

ロング,ロングバケーションの叡福寺清子のレビュー・感想・評価

3.2
夫は痴呆症が,妻は末期癌が進行する夫婦.文学者だった夫の夢,すなわちヘミングウェイの家を見たいという希望を叶えるために,夫婦はキャンピングカーに乗りマサチューセッツからフロリダの最南端キーウェストまで約2000kmの旅に出ます.
当然ロードムービーの形態ではありますが,行く先々での人々との交流というよりも,終活にも似た二人の行動が主眼となります.目的地に近づけば近づくほどに二人の病状は悪化するという状況は地獄のトリップに見えますが,暗いムードは微塵もありません.だって老いてなお健在,おそらく映画史上最高齢のベッドシーン(撮影当時ヘレン・ミレン72歳,ドナルド・サザーランド82歳)が展開するくらいですもの.そして死よりも恐れるもの,それは二人が離れ離れになること.ツインベッドで眠ることさえ厭うほどに(ここ大事です.試験に出ます.ちゃんとメモるように).

ドナルドといえば,本作は2016年8月の設定,そうドナルド・トランプ氏が大統領候補となり選挙活動を展開している真っ最中であり,作中でも支持者による応援活動と遭遇します.夫は民主党支持者であるのにそれすら忘れトランプ支持者と共に「USA!USA!」と気勢を上げるシーンはユーモラスでありますが,同時に痴呆症の深刻さを表現する良きシーンでありました.

夜はキャンプ場に泊まるのを常としていますが,そこでのお楽しみは過去の思い出写真スライドの鑑賞会.夫の痴呆進行を少しでも遅らせようと,そして改善させようとするかのように.それでもやはり記憶は混濁します.そこで妻は「私のあの人を返して!」と,あまりの現実の辛さに声を荒げ.その妻に対して「私も返してほしい」と夫はつぶやきます.ここは危なかった.もう少しで落涙しそうになりましたが,呼延灼は男の子なので泣かないのです.

泣くといえばラストシーンに涙はありませんでした.本人も周囲を全て悟っていたのでしょう,実際こーゆー悟り方って難しいですよねぇ.私なんて師匠が亡くなられた時,みっともないほどにギャン泣きしちゃいま・・・
あれ?師匠・・・えっっっっ・・・なんで生きてんですか!ってヤメテヤメテヤメテヤメテ師匠の稽古3時間なんて地獄じゃん,ソレダケハ!!!!


あと作品とは何も関係ないことですが,どっかの阿呆なレビュワーがネタバレ指定せずにラストを書いてましてね,こーゆー阿呆は爪の肉の色が毎日変わる呪いにかかればいいんですよ.まったく・・・