BOB

テルマのBOBのレビュー・感想・評価

テルマ(2017年製作の映画)
3.8
ヨアヒム・トリアー監督の少女スリラー。

「お前には"力"がある。全身全霊を込めて何かを願ったらその"力"が叶えてしまう。」

これは面白い。『キャリー』の系譜を継ぐ、抑圧と解放をテーマとしたティーンガールスーパーナチュラルスリラー。宗教と家族に縛られていた女の子が、大学進学を機に、自我に目覚め、秘められた力を解放していく。

少女から大人の女性への成長ドラマを、スーパーナチュラルスリラーとして巧く昇華している。性欲への目覚め、レズビアンであることの自覚、キリスト教への背信、過保護な両親からの自立、てんかん発作の原因究明。自分が何者なのかと模索することは、人間が大人になる上で誰もが通る道なので、少なからず共感できるものがある。結果として、彼女が決断した"父親殺し"という行動もそうだ。癲癇発作は、無意識のうちに強制されてきた"偽りの自分"から"ありのままの自分"へと転換するのに伴う、理性では制御できない反射的拒否反応みたいなものだと解釈した。

オープニングシークエンスから釘付けになる。ハンティングに出掛けた父親と少女が、雪山を歩いている。鹿を見つけた父親は、ショットガンで狙いを定めるが、突如少女の方に銃口を向け、躊躇った末に撃つのをやめる。不穏感と緊張感を高めると共に、ミステリー性を生む見事な掴みだった。

こんなに目がチカチカする作品も珍しい。精神的な葛藤×超常現象の描写は、ヒッチコック監督の『めまい』や『マーニー』を想わせた。主演エイリ・ハーボーの癲癇演技が生々しくて、観ているこちらまで気を失いそうになった。

「キリストはサタン」
終始、神が世界を支配していた。動物たち🫎🐍🐦‍⬛🐛のショットや、聖なる水のイメージ、序盤(ズームイン)とラスト(ズームアウト)にある大学広場を映した俯瞰ショットなど、神の視点が度々登場した。両親にとって、特別な"力"を持つ娘を育てることは、ある種、神から課された試練だったのかもしれない。

北欧らしい美しく荘厳な大自然と、どんより曇った薄暗い天候が、抑圧的な世界観にぴったりだった。

55
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