湯呑

ジュピターズ・ムーンの湯呑のレビュー・感想・評価

ジュピターズ・ムーン(2017年製作の映画)
4.4
冒頭から、緊迫感溢れるシリア難民たちの逃亡場面から幕が続く。アップを多用した長回しは、同じハンガリー映画『サウルの息子』を思わせるが、刑事に撃たれた難民の少年が浮遊するシーンからは、まさにこの監督の独壇場だろう。『ホワイト・ゴッドー少女と犬の狂想曲ー』もそうだったが、この監督は、シリアスなテーマを人を喰った奇抜な映像を交えてユーモラスに語っていく。ハンガリーという重い「歴史の傷」を背負った国の現在を、裕福な観光客と行き場の無い難民を対比させながら描きつつ、神無き世界で人間が自由を獲得するとはどういう事なのか、観客に問いかける。この映画では水平に走行するものは全て何らかの不自由さに囚われている。冒頭の難民たちの逃走シーンや、中盤のテロリストを追うシーンは、全て横移動の長回しで捉えられている事に注意すべきだろう。私達が水平方向に視線を向け続けているからこそ、国境が生まれ、争いが繰り返される。まずは歩みを止め、空を見上げる事。自由を探すかくれんぼはそこから始めなければならない。
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