パイルD3

女王陛下のお気に入りのパイルD3のレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
4.0

①【ヨルゴス・ランティモスのこと】

今週末、『哀れなるものたち』が公開されるので、自分の好き嫌いはともかく世界的には評価の高いヨルゴス・ランティモス監督作品を取り上げてみます。

CM製作で培った撮影技法や、画作りのクオリティはかなり高いし、出演俳優陣の演技力も高いのだが、作品そのものはどうなんだろうか…?
観終えた後、毎回この突っ掛かりが渦巻く。

ランティモス作品は題材からしてクセが強過ぎて、時折、醜悪なものを平然と並べてくるため不快感もハンパない。
いわゆる胸クソ映画の原資を詰め込んだデンジャラスゾーンのシークェンスも多発するので、ドラマの上下動も激しくなる。

特にセックスに関する歪んだ感覚に至っては、タブー領域に土足で踏み込みたがる監督なので、あざとい作風になるのは当然。
それが冷笑や苦笑をもたらしながら、日常の中に当たり前のように引き摺り込まれて行く演出はランティモス監督の最も執着する部分で、異常なまでにこだわりを見せる。

超絶美の映像の中にセックスや暴力の淫と陰の汚濁臭をチラつかせる世界観は、イギリスのピーター・グリーナウェイ監督の作品に近い気がする。
作品の好き嫌いはこれが分岐点で、そこに愛らしさを感じられる方にはたまらない作風だと思われる。

「籠の中の乙女」のビデオデッキ、「ロブスター」の動物群、「聖なる鹿殺し」のスパゲッティ、そして「女王陛下の〜」の鴨撃ちといった嫌悪感を植え付けずにはおかない特有の悪意ある見せ方もランティモス監督の隠れキャラのひとつだと思う。 

で、私はどうかと言うと、思い入れタップリの作り込みやクセの強さは嫌いじゃないけど、もう一度観たいとは思わない作品がほとんどです。


②【女王陛下のお気に入り】レビュー

こんな曲者作家であることを踏まえた上で、ストーリーテリングが冴え渡っていた「女王陛下のお気に入り」は鈍い輝きを放つ作品。
 
元来重病病みで17人の子供を流産、死産などで亡くした過去を持ち、女王ながら政治力は薄く、しかし性欲は強く、レズビアンで、能天気かと思わせて実は気性も荒く、無限の孤独と偏見を持つイングランドのアン女王を演じてアカデミー主演女優賞をはじめ多数の女優賞を受賞したオリヴィア・コールマンがとにかく圧倒的な存在感。

実際には過度の飲酒から肥満がひどく、棺桶が正方形だったとも言われる女王アンに似せるため、体重を増やしての役作りが奏功している。

女王の右腕兼身辺の世話役で、実質国家権力を握る執政官を演じるレイチェル・ワイズ、気の利いた振る舞いのその裏で、権力志向の強い性悪女の二面性を持つ侍女を演じるエマ・ストーンという演技派2人も、全く負けていないギラギラした芝居を見せつけるが、女の体臭をも感じさせるコールマンのクレバーな技量の前では、小振りな芝居に見えたくらいだ。

 時代は1700年代のフランスと戦争中のイングランド王国。
女王支配の宮廷内で、こんなギスギスした女3人がベタベタしたり、ネチネチしたり、権力の前で身も心もさらけ出した醜い争いを繰り返すストーリー。
国を挙げての戦争より、こちらの女同士の戦争の方が残酷でややこしく、タチが悪い。

ドラマ構成が8つのエピソードに分かれた組み立てになっているが、これはスケッチ感覚によるセンテンス作りのようなもので、注目すべきはやはりランティモス印のカメラワーク。
宮廷内中心のドラマなので、重厚な定点カメラになるかと思いきや、横移動、縦移動、オーバーラップ、180度パン、細かいカット割り、多用するあおりショットと落ち着きなくカメラは動き、見る側の視点移動はいつも通り。

女たちのバトルがどう決着がつくのかが眼目なのだが、そこもランティモス流の濁流のようなスタイルで、ひとつの答えを見せて幕引きとなる。

女王に心身共に捧げて忠誠を誓う側近のレイチェル・ワイズが、ある出来事により女王から嫌われ始める。徐々に言葉をも信じてもらえなくなる。

それでも真実を伝えようと、女王とは幼なじみで同性愛者でもあった彼女が、愛する女王陛下へ究極の心情を伝えるセリフが突き刺さった。

「私は嘘をつかない、それが愛よ」 

いつの時代にも正直な女は強い。
パイルD3

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