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女王陛下のお気に入りのtsuraのレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
4.0
相反するものが同居するという不自然程の奇怪で愉快なものはない。

今作で言うと美しさと醜さだ。
そして、そこに有る毒ほど甘美なものは無い。

何処かの地方では昔、フグの毒を舌先に微塵程度だが乗せて食べるという風習があったと聞いた事がある。人を簡単に殺せる毒なだけに舌先でピリピリと感じる刺激が堪らないらしい。

或いは。

猛毒の毒キノコ🍄ベニテングタケも同じくらしく、このキノコに含まれるアミノ酸の一種は人間には素晴らしい程の旨味として味わえるらしいが、その先に待ち受けるのは天国に一番近い場所、である。(要するに生死をさまよう)

では18世紀初頭のイングランドの宮廷で巻き起こった毒はどうなのだろう。

映画を見ればその甘美な刺激にもう後戻り出来ない筈だ。

欲が蔓延り蠢くのはいつの世も同じというか。

その不変のテーマを未だに反芻する人間の愚かさを痛感しながらも当時の"大奥"を側から見て愉しむ私達というその皮肉。


でも人間ってそんないつの世も欲望に充ち満ちていておまけに階級なんて結局御飾りで人間は矢張り動物の端くれで、だから人間臭くて魅力的だわ。

ヨルゴス・ランティモスという人間という生き物の洞察がこの作品で爆発していて終始刺激に満ちた作品だったということはキチンと申し上げたい。

ヴェネチア国際映画祭での受賞とアカデミー賞前哨戦での躍進ぶりを見ているとこの作品が優美なコスチューム劇だけに留まった作品ではない事は分かっていたけどここまで楽しく鑑賞出来るとは思わなかった。
(流石に作品賞は厳しそうだが笑)



Ⅰ.ストーリーが本当よく練られている。
アン王女と幼馴染ながら右腕となっているサラの2人の駆け引きはラスト迄伏線を保たせており、それがラストカットで回収される事を読み取った時の恐ろしさたるや笑

Ⅱ.やっぱり欲の上塗り
冒頭から痺れる要素として挙げていたが登場する人間は何処を切り取っても何かしらの欲に塗れている。

セックス、政治、金、出世、名声。

アン王女は孤独が故に欲に浸る。
彼女が痛風であったが、以降の視力低下や四肢の不調はまさしく糖尿病と

唯一まともに感じられるのはサラくらいだが彼女も名声の為なら犠牲も厭わない姿勢がのちに様々な欲の餌食になっていくのが皮肉だし、登場する人物は多かれ少なかれその欲に喰らわれる。

男女を端的に捉えていて面白かったのは初夜を手淫で済ませようとするシーンの流れはまさに男女間の価値観をよく捉えていたり。

Ⅲ.映画は豪華絢爛
このレビューを作品鑑賞前に読んでいただけるのなら映像の明暗を先ず楽しんで欲しい。
廊下を灯す蝋燭の火、道を照らす松明の火、宮廷に差し込む陽光。
人の表情は勿論、そこに潜む感情の表裏がこの明暗のコントラストで美しく捉えている。

Ⅳ.映画は豪華絢爛 Part2
この作品はイングランドの宮廷を描きつつも様々や階級が作品を彩っている。

その中で目を惹くのは華麗なる衣装の数々である。

アン王女の貫禄を体現した豪華な衣装はアン王女の肖像画に忠実だったし私はレディ・サラの漆黒のドレスに参った。

あの黒の美しさと危うさを同居させれるのはレイチェル・ワイズが正に打って付けであった。
個人的には給仕人達の抑えられた配色は慎ましくもありながら美しい仕上がりでありあのコスチュームは凄く好きなデザインだった。

Ⅴ.しのごの言わず女優3人の演技に酔いしれて

映画はこの3人のドロドロと溶かす程の熱量が兎に角凄いのなんの。

多くはエマ・ストーンのおぞましい迄の執念に対してショッキングな印象を受けるだろう。

しかしオリヴィア・コールマンの王女とはいえその自堕落加減とわがままと貫禄のバランスは(劇中の精神状態はややアンバランス)個人的には主演女優賞に相応しいと思っている(今年はさすがにグレン・クローズだとは思うけど)

だけど一番この人。
改めてレイチェル・ワイズの演技を目の当たりにして完膚なきまでにひれ伏してしまった。
思えば「ハムナプトラ」見に行った時にはこんな女優さんになられるとは思ってもいなかった(すいません、失礼で)

だけど今作のキレる今で言うキャリアウーマンの天と地を彷徨う姿は圧巻であった。

いやぁ…ホントこの3人の演技だけで画が成立するんだから笑
久々に演技合戦に痺れた。

Ⅵ.でこの作品はアカデミー賞獲れるの?

結論、流石に昨今の女性軽視に対するムーブメントが追い風になっても今年の作品賞は難しいと思う。
(Roma/ローマがもし獲れなかったら恐らく、グリーンブックかブラッククランズマンだろう)

しかし上でも述べた撮影部門(取り分け編集賞は接戦と見る)や美術、衣装部門(サンディ・パウエルは矢張り凄い)そして、史実を基にこれ程機知に富んだストーリーを醸成させた脚本は賞に値するだろう。

予想:
脚本賞
美術監督賞
衣装デザイン賞

の3部門受賞と思う!


まあ…長々と語ったけれど、簡単に言ってしまえば…女は怖い。笑

そして、敵に回してはいけないのだ笑


余談だがオープニングのフォックス・サーチライトのクレジットに要注目ですよ♪
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