JoeyOgawa

女王陛下のお気に入りのJoeyOgawaのレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
5.0
『籠の中の乙女』、『ロブスター』、『聖なる鹿殺し』と独特な異世界を作り上げる“鬼才”ヨルゴス・ランティモス監督の待望の最新作は実在したイギリスの女王を取り上げた作品と聞き、「まさか『エリザベス』や『ヴィクトリア女王 世紀の愛』みたいな糞真面目な史実ドラマをやっちゃうの……」と不安をちょっと抱いたが、流石はヨルゴス・ランティモス。いい意味で期待を裏切り、不穏とやや変態染みたヨルゴス・ランティモスらしさ500%の異世界の中世イギリスを見せつけてくれた!

一応、アン女王を演じたオリヴィア・コールマンが主演ではあるが、真の主演はエマ・ストーンが演じたアビゲイルで、彼女の下女から女王のナンバー2を狙う成り上がりストーリーと見るとかなり面白い。構図としては痛風持ちでデブデブでルックスも悪いけどカリスマ性がある女王に、頭がキレッキレで実務も取り仕切るナンバー2のサラに知恵と外堀埋めとちょっぴり悪意で虎視眈々とナンバー2を狙う成り上がりのアビゲイルとなっている。この成り上がりっぷりにどことなく『バリー・リンドン』に重なっても見える。

糞尿まみれた汚い泥やアヒルのレース、子供代わりのウサギ、畳の廊下などこれまでの中世ヨーロッパの史実映画にはない描写が面白いし、女王があらゆる意味で醜く描く辺りも新鮮。女王が醜ければ醜いほど映画は面白く、ヨルゴス・ランティモスらしい異世界を形成する。
さらに、泥の風呂に入ったり自慰のシーンやレズシーンなど変態性もたっぷり。

こうした目に見える変態性と上記の女王とダブル側近の泥々人間ドラマと二重の汚さで不条理のドラマを形成する。エンディングでかかるエルトン・ジョンの曲の心地よさが半端なく、この上ないカタルシスで心に染み渡る。
 

女王がサラやアビゲイルと仲良くする辺りや中世のデフォルメなんかはソフィア・コッポラの『マリー・アントワネット』らしいし、不穏なドラマは『アマデウス』や上記でも挙げた『バリー・リンドン』に通じるものがある。過去の史実を題材にしながら異世界を作り上げ、ある意味史実SF、中世ヨーロッパSFとも言え、動物の使い方や変態さなどで『ロブスター』と並ぶ2010年代の傑作!
JoeyOgawa

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