マーフィー

ザ・スクエア 思いやりの聖域のマーフィーのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

2023/4/30鑑賞。
2023/6/15 2回目鑑賞。

ポッドキャストで喋りました。ぜひぜひ。
https://open.spotify.com/episode/6vu8XsCaKnth7XxgK0s1rG?si=x59plzlDTIapVrhQN2vOCg


スッキリする映画でも、盛り上がる映画でもない。
あぁ...みたいなのが続く映画。


「スクエア 思いやりの聖域」というアート作品を物語の中心に据えることで、その対比によって色々な皮肉が生まれまくり。皮肉ビッグダディ。

「命に救いの手を」と言ってる側でホームレスが座っているが、誰も助けないシーン、
スクエアの説明をした直後にも関わらず、シェフの説明誰も聞かないシーン、
スクエアの説明をしているシーンの間に、携帯のGPSを辿っている部下が映る、言ってることと対照的な印象になるシーンなど、
とてつもなく分かりやすい皮肉たっぷりのシーンが多くて面白い。
トークセッションの場で精神障害の人の行動に対して「少し寛容になりましょう」「どんな人でも大歓迎です」と思いやる雰囲気を出していたものの、
クリスティアンがその後精神病の人をバカにした人と寝るというどこまでもクソな皮肉もあってすごい。


さらに、2回目に見た時には画的な「スクエア」と描かれている状況との比較で皮肉になっていたり、そのまま思いやりを表現しているのではと思うシーンがちらほらあった。

例えばビラを撒いているシーンで階段を移動するカットは、四角形(スクエア)の引き画の中で脅迫ビラを撒くシーン、
スクエアなのにやってることに思いやりもクソもないという。

またクリスティアンの子どもが家に入ってくるシーンでは、
四角い美術品?ポスター?の前で争う姉妹が描かれていて、こちらもスクエアの画の上で争う構図。

さらに後半のシーンでは階段の四角い構図の中で少年と争う。

その一方で後半、チアのコンテストのシーンは
スクエアの中でチアをしている。
その後コーチが「素晴らしいチームワークだった」と褒めたり、失敗した生徒を励ましたりする。これはスクエアの表す思いやりの構図まんまに思えるし、
ラストの最後3人で謝りに行く階段のスクエアも、まんま思いやりの構図で、前半のビラを巻くシーンとの対比も含めて素晴らしい。




あとは昔から思ってたことだけど、
「人は心に余裕のある時にしか人に優しくなれない」ということを改めて感じた。
盗られたものが返ってきた時のクリスティアンがまさにそれで、
ふだん助けようともしないホームレスに、財布が戻ってきた嬉しさのあまりお金を思いっきり渡す。

調子良いことしてんなと思いながらも、これこそ真理じゃないかなと思った。
誰もが心に余裕がある時しか、他人に対して思いやりを持つ事はできないのでは、と思った。

この感想を書いている時、ちょうどあるポッドキャストで作家の水野敬也さんが、
「優しさは『性質』ではなく『状態』だと思う」と言っていたのがまさにこれだった。

スクエアの展示を見にくるはずの人々も、そもそも美術館に行くような気持ちの余裕がある人たち。
そんな状態の人に思いやりを持つことを訴えればそりゃ響くけど、
優しさを「状態」と仮定すると、スクエアのメッセージをこのストレスの多い社会生活で還元できる人はほとんどいないのではないだろうか。
この映画の中の数々の逆構造が、それを示唆しているようにも感じた。






二点気になるところ

・ビラを撒く直前に手袋つけても一緒ちゃいますかね?

・なんで服の中にシートベルト入れてんの...?
帰りの車では入れてない!なにこれ!
マーフィー

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