半兵衛

女であることの半兵衛のレビュー・感想・評価

女であること(1958年製作の映画)
4.0
「女性の自立」というテーマの戦後らしい題材が、川島雄三監督の奇抜で才気溢れる演出によってまるでパゾリーニ(特に『テオレマ』)やブニュエルを思わせる思わぬ訪問者により己の欲望や羨望に気付き新たな道を進もうとするヨーロピアンな文芸映画に。

『テオレマ』のテレンス・スタンプに匹敵するクレイジーな侵入者・久我美子の存在感が圧倒的で、どう見ても劇中で一番狂っているはず(彼女の殴り書きしたメモは原節子ならずともゾッとする)メンヘラなのに生えるファッションと機敏な動き、その気品ある美貌で作中最も魅力的なキャラクターになっているので困る。彼女が原節子や原の夫である森雅之に対して二転三転する言動の数々も、結構酷いはずなのに久我が言うと「彼女もまた愛というものを求めているのだな」と不思議に納得してしまう。でもクレー射撃で悉くターゲットに命中させる久我を見ると「やはりこいつは人間の姿を借りた何かではないか」と思ってしまうが。

相変わらず煮え切らない森雅之、久我の真意に気付き怖い顔をしまくる原節子とそれぞれの個性を生かしたメインキャストの演技も見事。ただ森&原夫婦の家に同居する香川京子が暗い境遇のためか終始しかめっ面をしていて久我や原に比べて今一つ存在感が薄いのが残念。

丸山明宏がアップで主題歌を歌うオープニング、主人公たちが住む一階に玄関だけある家、鈴木清順や『幕間』のように真下とまでは行かなくても下からダンスする男女を捉えるショット、酔っ払った久我と原のキス…。次々と天才的な演出がこれでもかと出て来て楽しいけれど、まとまっていないのでとっちらかった印象にしかなっていないのが惜しい。あと後半家に帰ろうとするはずの森と久我が森の弁護士事務所→車→誰もいない原っぱに行く流れはどう考えても変すぎる。

それでも全く動きの少ない話の中に、自転車や車、歩いたり走ったりする自然な動作を組み入れることで映画に活劇のリズムを加えるのはさすが。あと冒頭自転車で後ろ姿のみで走る人物が、別の場面でその後ろ足から出てくることで「あのときの…」と理解させる演出も素晴らしい。その人物がラストで後ろ姿で去っていく演出も粋。

メインの役者や中北千枝子や音羽久米子といったキャスティング、脚本、題材とどことなく先輩の成瀬巳喜男を意識しているかのようで印象に残る。
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