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バグダッド・カフェ 完全版のnaorinのレビュー・感想・評価

3.9
初めて観た時は子供で
カフェの女主人の
ヒステリックさに辟易して
序盤で鑑賞をやめてしまった記憶。
それから20年近く経ち
そう言えば、とふと思い出して
今更ながら再チャレンジ。

パッケージやポスターにもなってる
羽根つき帽子にスカート、
ヒールの女性が
雲ひとつない空をバックに
長いモップで給水塔を掃除する姿は
とてもアイコニックで
実際にそのシーンが出てきた時は
教科書に載っていた「モナリザ」や
「民衆を導く自由の女神」を
ルーブル美術館で目の前にした時と
同じくらいの感動を覚えた。

ふくよかな体型に
ドラァグクイーンのようなメイクの
ジャスミンはどんな格好でも
なんだか品があってとても素敵。
不思議な存在感がある。
けれどお世話にも見目麗しいとは
言えない個性的な登場人物たちに、
砂漠にポツンと点在する
寂れて薄汚れて実際は
とても入る気にはならないような
カフェ(&モーテル)が舞台。
ストーリーも
何があるというわけでもなく
人によっては退屈すら覚えるかも。

それなのにこんなにも
心揺さぶられ、掴まれたのは
自分もいつの間にか
あの“ヒステリックな女主人”
ブレンダに共感すら覚えるほど
迷子の大人に
なっていたからだろう。

何もかも思い通りに上手くいかず
つい周囲に当たってしまうが
本当に憤りを感じるのは自分自身。
自己嫌悪は心を蝕み
更なる悪循環を産み
でももうどうしようもない、
どうしたらいいかもわからない。
なにもかも持て余したまま
ただ過ぎていくだけの日常。
そこに現れる些細な変化への
きっかけ。
受け入れるのに時間はかかっても
思い切って心を開いて
自らを省みれば
周囲も自分も、少し幸せになれる。
(その中でデビーだけが
違う道を選ぶのも好きだ!)

長らく放置していたことを
悔やみはすれど
大人になってから観たのは
むしろ正解だったのかも。

わたしの人生という名の砂漠にも
ジャスミンよ、現れてくれ。
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