熊犬

世界で一番ゴッホを描いた男の熊犬のレビュー・感想・評価

3.8
【画家から職人、そして画家へ】

原題 : 中国梵高/China's Van Goghs

複製画の輸出で世界の半分以上のシェアを取る中国の大芬(ダーフェン)。貧乏故に中学にも通えず、出稼ぎでこの街にやって来た趙小勇(チャオ・シャオヨン)は、ゴッホを見よう見まねで描き始め20年もの間ゴッホの複製画を描き続けている。
自分の工房を持ち、家族や弟子と共にひたすらゴッホを描き続けた彼は、いつしかゴッホの人生に魅了され、自らの人生を重ね、そして本物のゴッホを見るという夢を抱く様になった。
次第に夢への想いが募り、彼は家族を説得し、彼の稼ぎでは決して少なくない金額を使ってついにアムステルダムを訪れる。そこで彼が得た気づきは、果たして今後の彼の人生にどのような影響を及ぼすのか…
…な映画。

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たまにはドキュメンタリーなど。

いや~、想像以上に面白かった。ドキュメンタリーなんだけど、もの凄いドラマがある。どこまで監督の手が加わってるかは分からないけど、それでもやっぱりリアルなドラマ。リアルだからこそ割り切れない感情が割り切れないままダイレクトに映し出されて、シャオヨンの気持ちを完全には理解できないまでも観る側としてものすごく想像してしまう。それがまた、居たたまれない気持ちになってしまう。

まず思うのは、こんな世界があるんだな~、って所。本当に知らない世界ってあるんだな。僕の率直な感覚としては「こんなコピー品、欲しい人の気持ちが分からん…」って思ってしまうけど、それを作ってる人たちが当然いるわけで。そしてそこには彼らの生活、思い、プライド、夢、そして場合によっては人生が乗っていて。その"作ってる側の心"と"売ってる側/買ってる側の心"の乖離をリアルに突きつけられて、その落差に戸惑うシャオヨンの表情はもの凄く訴えてくるものがある。

“長年の付き合いの画商なので、立派な画廊で売られているかと思っていた…まさかゴッホミュージアムの外にある観光客がごった返す店で、お土産として売られているとは…しかも値段は卸値の10倍近くで…”

20年間ゴッホを描き続けてきたプライドとの葛藤がもの凄く重い。

そんな中で、ゴッホの絵画を見て言葉を失う。20年間ただゴッホと向き合い続けてきた男が、憧れた本物のゴッホの絵をみてどう思ったのか…お金がなく中学に通う事も出来ず、ゴッホの存在を知る前からゴッホを描き続けて来た男。その男の誇りであり、人生の師であるゴッホの絵。自分の人生を幾度となく重ねた画家と自分の明確な差。

そういうごちゃまぜな感情をもって中国に帰って来たシャオヨンが初めて描いたオリジナルの絵。ここにこの映画のカタルシスの全てが詰まってる!

シャオヨンの初めてのオリジナル…それは間違いなくそれまで映画で出て来たゴッホ風としか言いようのないゴッホの複製画とは一線を画す、まさに彼にしか描けない絵画。圧倒的に心が乗った、素晴らしい絵画。これは必見。

ドキュメンタリーなのに、フィクションの様な映画。ハッピーエンドかどうかはこれから先に決まるとして、間違いなく最高のエンディングだとは思える、そんな映画でした。

※尚、彼は今でもオリジナルと複製画の両方を描いていて、オリジナルは複製画の何十倍もの値段で売れているとか。映画の力もあるかもしれませんが、彼の今の夢は自分の個展を開く事、だとか。凄い。

■本日のビール『Alm』
醸造所: Nevel (オランダ)
映画でも軽く触れられている、ゴッホが愛した酒"アブサン"。これはニガヨモギを原料とした蒸留酒なんだけど、Almはこのニガヨモギを使ったビール。
ネイベル醸造所はゴッホの出身国であるオランダの、その郊外で、自然酵母と近隣農場で育ったハーブ等を使ったビールを作る醸造所。フラッグシップのAlmは独特の苦味と酸味のめちゃくちゃ美味しいワイルドエール。
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