ぼンくらマン

希望のかなたのぼンくらマンのレビュー・感想・評価

希望のかなた(2017年製作の映画)
4.2
 2018年、劇場鑑賞4本目の新作映画

 アキ・カウリスマキ監督の作品、引退作にして、本作が初めての1本です。国を捨てざるを得なくなった人々、そんな彼らを待ち受ける現実が描かれます。

 この映画の好きなところ、それでも深刻になりすぎないところです。底抜けに明るいというわけではないかもしれないけれども、なんとかその日その日を少しばかりの暖かさ、おかしさ、ほんの少しの思いやりで、慎ましくも乗り切ろうとする人々。そういった、人と人との暖かさが、「ほんのすこし」というさじ加減だからか、押しつけがましさもなければ、偽善的な雰囲気もないんです。、だからこそ、欺瞞に見えない問題の切実さが、映画の端々から見えてくるのです。

 あまりに映画にしようとしすぎて、不幸のオンパレード状態になって・・・そのせいで逆に作り話にしか思えなくなってくる。そういう瞬間、映画でよくあると思うんですけれど、(勿論、そうして作ったからこそ面白くなる映画だってたくさんあります。)この映画にはそういうなる瞬間は皆無です。

「あ、本当にこんな感じなのかな」

 と思わせる絶妙なラインです。聖人になってしまわない程度にいい人、ハードになりすぎない程度の深刻さ・・・こういったところで決して盛りすぎないんですよ。だから見ていて、一本の映画として安心して見えるというのか、とにかく観ていて心地よいのです。

 笑わせすぎないジョークのセンスもすごく品がよくて、爆笑、というほどではないにせよ、クスクスと笑える瞬間がいっぱい。このクスクス程度なのがとてもいいんです。登場人物は全員、昔のガキ使でやっていた、松本人志のパイ投げ地獄並みの無表情とローテンションぶりで、大げさすぎないボケ倒しを繰り返すのが面白い。

 さりげなく出てくる看板やら、リアクションの数々。

 喩えるなら、笑ってはいけないシリーズで、大爆笑程じゃないけれど、地味におかしくて2人くらいケツバットされるくらいのテンションの笑いです。

 そんな可笑しさの裏側に、確かに忍び寄り、常に登場人物たちの裏側にあり続ける、現実の冷たさと逃れ得ない救いのなさ。一縷の希望だからこそ見えてくる、現実の暗さ。そういったものが、だからこそより真に迫ってくるのです。