ぼンくらマン

パイレーツ・ロックのぼンくらマンのレビュー・感想・評価

パイレーツ・ロック(2009年製作の映画)
4.0
 1960年代、イギリス。ロックミュージックの放送が制限されていたこの時代、北海洋上で違法にロックを公共の電波に流し続ける海賊放送局、「ラジオロック」。その船にある日、クスリと喫煙で退学処分となってしまった少年、カールが乗り込んでくる。ただひたすらにロックを愛し、自由きままに生きるDJたちと、少しずつ打ち解けてゆくカールだが、一方その頃、イギリス政府は、違法な放送を辞めさせるべく海賊放送客に妨害の手を送り込もうとしていた・・・

 リチャード・カーティス監督の作品、以前見た作品は『ラブアクチュアリー』のみなのですが、この監督、本当に役者さんたちのイキイキとした演技を引き出すのが上手い監督ですね。

 実際本作、一貫したストーリーらしいストーリーはなく、船の上の生活と、政府の横やりとが交互に描かれるばかり。そしてそんな船の上での生活は、ちょっとした断片的な日常のエピソードの積み重ねばかりなのですが、それでも主人公のカールが、船の上で暮らすうちに心を開いていく様子が伝ってくる。この部分はまさに役者さんたちのアンサンブル演技の賜物とも言うべきもの。フィリップ・シーモア・ホフマンやビル・ナイ、ニック・フロストにリス・エバンスと、海賊船の乗組員を演じる役者さんたちはみな実力派ぞろいながら、なんだか観ていると、まるで彼らに楽しげな日常をそのまま切り取ったかのような楽しさに満ちていて、それはさながら、俳優たちのパーティーのドキュメンタリーを観ているかのよう。作劇的な編集点や間合いを気にせずに、本当にのびのびと役者陣が演技を楽しんでいるのがよく分かりますし、観ていると、彼らが本当にスクリーンのこちら側に降りてくるかのような、身近な存在に思えてくるのだから凄いです。

 個人的に好きなのが、早朝の放送を担当している反隠居状態のボブ。終盤、必死で船から取ってきたレコードを、ニックフロスト扮するデイブに・・・というくだり、面白くてしょうがないです(笑)

 こんな彼らを観ていると思うでしょう。「こんな楽しそうな大人たちと、自分も会いたかったな。」と。僕の高校は、都内ながら八王子の山の中で、お坊ちゃん校なところでもあったのですが、(それはそれで面白い時期もいい友達もいたし、一方で嫌な思い出も結構あったりもして、今思えば何だかんだで大切な日々だったと思うのですが)あの時期の僕は、こんな風に、ルールなんか糞くらえ、自由に楽しく生きているぞ!という大人たちの存在にずいぶん憧れたものでした。そして、この映画にたびたび登場する、親に内緒で海賊ラジオ局の放送を聞いている少年少女たちも、きっとそのときの僕と同じような気持ちを抱いていたのでしょう。

 「ああ、あのとき、こんな一瞬があったらな」と思わせる映画、僕は大好きです。それが青春映画(本作は青春映画、というジャンルではないかもしれませんが)の醍醐味の一つ。そして、そんな「こんな人生の1ページが欲しかった。」という一瞬一瞬がたっぷりと詰まった作品です。