「年代物の監督だからね」
なんて言えるのが素敵だけど、少し寂しくも感じた。政治的に経済的に弱い立場にある人たちに耳を傾けて信念を貫いてきた人なので、さすがにもうこれで最後なのかなと思うと支えを失ってしまいそうな気持ちにさせられる。
自分自身が割りと貧しい生い立ちだったせいもあって、ケン・ローチ監督の描く“人間”には共感させられることが多かった。食べることに困っている、てところまでの人は比較的少ない日本なら、この監督の思いとどこまで本気で向き合えるのかって結構難しい部分もあるのかもしれない。利口で勤勉な日本人ならこの登場人物たちに対して、もっとこうすればいいのにとかああすればいいのにとか色んな見方も出てくるのかもしれない。ただ、彼の映画に出てくる人たちにとっては、普通のことがそんなに簡単なことじゃないってことはあると思う。
支配階級と労働者階級。もしも弱者の不遇を弱者の側にも問題があるという合理的な考え方で片付けてしまったとしたら、社会は一部の人たちにとってだけ幸せなものになるだろうし、貧困は無くならなくてテロは増えていくだろうと思う。だからケン・ローチ監督は弱者の代弁者となって、政治と闘い続けたんだろうと思う。
もう新しい作品が製作されなくなったとしても、これまでの作品はこれからも残り続けていくので、監督の思いは大切に受け取り続けていきたい。
素晴らしいドキュメンタリーでした。