垂直落下式サミング

KINBAKU~月の章~の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

KINBAKU~月の章~(2016年製作の映画)
3.5
夫の自殺で未亡人となった女性が、夫に追い込んだ会社の女上司に復讐するため、縄師を雇ってそいつを辱しめてもらおうとするのだが、自分も縄師によって縛り上げられてしまう。女たちが緊縛による快楽に呑まれていくさまを描いたエロティックサスペンス。
とかく、あいだに挟まれる俳優の演技は、ぜんぶゴミ。ちんたらドラマパートほんとつまんない。決められたセリフを言ってるだけだから、フルスキップでいい。
最初、緊縛の歴史を説明するナレーションとワーグナーにのせて、縄師によって縛られてる女の人の悶えがうるさくて嘘臭いけど、体を締め付ける縄のあいだからぷるぷると震えるのは、観賞用のおっぱいじゃなくて、実用的なおっぱい。世の男性がもっとも抱きたいのは、こういうカラダでしっしゃろ。
達人の超絶技巧をみせられても、素人は何がすごいのかわかんないのが世の常だけど、緊縛の過程を外国人の男性が副音声付きで解説!淡々とした説明口調が、官能小説みたいでぞくぞくする。
身体を横吊りにするのは、獣縛りだとか狸縛りとも言うらしい。猟師が獲物を吊るす様子に似ているからだとか。恥ずかしい姿で自由を奪われる女部長の屈辱的な表情がそそる。そんでもうひとつは、猟師が鉄砲を担いでいるような縛りかたの鉄砲縛り。狸縛りと鉄砲縛り。狩る側と狩られる側の図式が完成したのだ。なるほど。
そのあと、女は危機的状況において排卵が誘発されるのだ!というトンデモ学説を真顔でエクスプラネーション。少子化、自殺、男尊女卑、右傾化、日本の未来を憂いながらもエロを解説するナレーションの思想がうるさくてヤバい。
「本来、女の妊娠適齢期は20代前半である。だのに進学だ趣味だ旅行だ女性の社会進出だと躍起になって、三十路も半ばを過ぎてからようやく結婚し、そこで不妊治療に無駄金を使うくらいなら、さっさとレイプしてやればよいのだ!」
すげえなーっ。この時代錯誤のヤバイ価値観を大っぴらに言えるのは、ほぼ確で女性の目に触れないジャンルであるピンク映画だからか。
「お前が悪いんだ」「いや私は悪くない」って前半の掛け合いはつまらないけれど、後半になってから少子高齢化や女性の権利向上など社会問題とか絡めながら、女たちが各々の人生観を吐露していくところのトリップ具合は、前衛映画のようで見ごたえ抜群。ラストで、客の前で縛られる様子も、ショー的な嗜虐美満天。