木曳野皐

四月の永い夢の木曳野皐のレビュー・感想・評価

四月の永い夢(2017年製作の映画)
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「世界が真っ白になる夢を見た。」
桜と菜の花が丁度咲き乱れる頃、貴方は死んだ。
ただ彼女が扇風機の回る部屋で日常を過ごす。
何故それだけのシーンがこんなに心を穏やかにするのか、そのトリックを私は知らない。
自然で、静かで、時折流れる優しくて可愛らしいBGM。
彼女の飲むクリームソーダや、彼女が押す自転車が可愛くて愛おしくて、私にはまだこんなに静かで穏やかな感情が存在したと気付かされる。
「決して目を合わせようとしない人だった。けれどもとても優しい人だった。」
私は“優しい人”という抽象的な言い方がどうも性に合わなくて、ひとつ決めた事がある。
偽善が多く存在する世の中、本当に優しい人は『他人から貰う些細な優しさに気づける人』だと。
だって本当に人に優しくしてれば、与えられた時に絶対に気づけるから。
「あぁこの男性は、そういう人だな」って自然に思えた。
少し派手なワンピースの彼女、電話の時背筋が伸びちゃう彼女、面倒臭いなって思いながら1階上まで行ってくれるオジサン、愛想笑いが上手な彼、激しく降る雨さえ。…誰も得しない嘘さえ。
些細な幸せを積み上げる事がきっと何よりも難しいけど、彼女やその周りの人々がずっと優しさに包まれて幸せな人生を送る事をそっと願う。
何故かどうしようもなく泣きたくなる映画です。最後の最後明かされる“彼女宛ての手紙”は本当にどうしようもなく泣けて、優しくて、でも透けて見える感情があって、「相手が喜ぶ言葉を」の意味を教えて貰った気がします。

新潟にも“白十字”っていう老舗の喫茶店があって、小学生の頃毎週日曜日におばあちゃんと行くのが日課でした。でも、店畳んじゃったんです、数年前に。
懐かしい。行きたいな、あそこのサンドイッチはパンが薄くてサクサクしてて美味しかったな、珈琲もちょっと当時の私には酸味が強くて大人の味したな、叶う事ならまた行きたいな。
そして私は『手紙』と言う媒体がどうしようもなく好きです。ひとり、文通をたまにする遠くに住むお友達が居ます。無性に書きたくなりました。きっと私は書くでしょう。筆無精な最近の私にお別れをして。

この映画の主演の子、黒木華みたいな良さがある。強いけど可憐で愛らしい。めちゃくちゃ好きでした。
そして決して派手な映画では無く、本当に1ページ、1行、1文字ずつ綴る様な映画なのにこちらに退屈させないその魅せ方は天才的なものだなと感動しました。
あぁ〜〜〜、女の子の浴衣姿ってこんなに可愛かったっけ。
木曳野皐

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