菩薩

四月の永い夢の菩薩のレビュー・感想・評価

四月の永い夢(2017年製作の映画)
4.6
平成も終わりかけのこの年だと言うのに、この作品には昭和の香りが漂い、昭和の音が響き、昭和の色がつけられている。畳の部屋、古ぼけた扇風機、音の悪いラジオ、人の少ない商店街、こじんまりした銭湯、ナポリタンとクリームソーダの喫茶店、色鮮やかな浴衣、夜空に咲く満開の花火、天井からぶら下がる手ぬぐい、寂れたローカル線、食卓にのぼる鱒寿司、そんな溢れ出る生活感に90分普段より高めの位置で口角が固定された。桜の花が散り、新緑が芽吹き、それが青々と茂ろうとも、初海はずっと四月の永い夢の中にいた。そんな彼女のもとに届いた一通の手紙、その封を開けた時、漸く時計は再び時を刻み始める。夢ならどうか醒めてよね、そうして彼女は毎朝起き、朝食を食べ歯を磨き家を出る。嘘で始まる四月から蝉時雨の八月へ、三年かかって初海の季節は春から夏へと歩を進める。一つの嘘を乗り越えて、一つの想いを伝えて、彼女は再び書を持ち一人で旅に出る。「ごめんなさい」に返される「ありがとう」の響き、やっと届いた渡せなかったラブレター、寄せては返す時の波の中で、季節に閉じ込められた心は遂に眼を覚ます。

色は匂へど 散りぬるを
我が世誰ぞ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて
浅き夢見じ 酔ひもせず

この作品にはいろは唄がよく合う。過ぎ行くままにその身を任せた三年間、その先の新しい季節に、彼女はまた新しい恋をするのかもしれない。