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カーテンの向こうにのcorsbyのネタバレレビュー・内容・結末

カーテンの向こうに(2014年製作の映画)
2.9

このレビューはネタバレを含みます

美しい日常のワンフレーズ


ショートショートの魅力はその本編だけでなく、本編の前後に何があったかを大いに想像することができる所だと思う。
少年がこれまで抱えてきた苦悩や、それでも失われなかった優しい心、“カーテンの向こう”の少年とのこれまでと、これから。
2時間の映画であればあまりにも説明不足だと言われるが、ショートショートではそれがむしろ魅力となる。少しだけであることの悔しさに似た感情と、旨味をたっぷり頂いたような幸福感とで、じわじわと満たされる作品。
その一因になっているのは舞台背景や繰り返し歌われるメロディーの静かさ、そして日本にいてはあまり馴染みのない新鮮さ。けれどどこかで見て、聴いたことがあるような懐かしさ。
先述のように短い作品の中で全てを理解することはできないが、人間関係が分かりやすく感じるのは、きっと誰しもどこかで知っているシーンだからではないだろうか。けれど決まり切った展開には収まっておらず、ミッコがいじめっ子に立ち向かうシーンは、出会って数分(数秒?)とたたないながら、思わずぐっと拳を握りしめながら見守ってしまう。

ラストの教員の一言に対する意見を散見したが、これも想像の余地があって個人的にはとても楽しい。
ミッコの声ではないことを分かっていたのか? もちろん分かっていたとするならば、なぜあの一言を? ミッコに恥をかかせないため? それとも、これからきっと克服できるという彼なりの祈りを込めて?
私たちが見ることのできる他人の日常はほんの一瞬で、けれどその幸せを願わずにはいられない人がいる。ショートショートにはそんな魅力がある。


そして、一見歌の上手な少年に注目が集まりがちなラストシーンだが、梯子の上で軽やかに歌う少年から見れば、まさしくミッコこそがカーテンの向こうのその人なのである。

憧憬や、優しさ、儚さと、冒険と、その全て。
外と、中の、ふたつの『カーテンの向こう』の美しさに心を打たれる。短いながら名作。
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