Torichock

寝ても覚めてものTorichockのレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
4.5
「寝ても覚めても」

純粋という名の暴力装置

スカートひらりと舞うたびに
彼女の恋が輝いて
恋の面影を引きずった
愛はパンツにガードされ
飛び散って割れた皿のように
愛は恋に殺されかけて
恋は波の向こうに消えていき
愛に置いていかれたその時に
彼女に愛が訪れた


誰かを想うことは美しいのに、
誰かを想い続けることは残酷。
誰かを忘れないことは美しいのに、
誰かを忘れられないのは残酷。
誰かを愛することは美しいのに、
誰かを愛することは残酷。

同じことなのに、全然同じじゃない。
寝ても覚めても、それが夢であってもそうじゃなくても、手を伸ばしたその先にある、あなたの指は、指のであってナイフでもある。

そんなのを突きつけてくるなんて、なんて残酷な映画なんだろうって、そう思った。
そして、その残酷さは、世間一般が望む純真の中に鈍く光る、最も鋭利なモノとして存在するなんて。

これが人殺しなら、安心しただろう。
でも、恋愛だった。
だから、誰のものでもあって、誰にも手の届く残酷さを秘めていた。

これだよこれ、と思った。

東出昌大のベストアクト必至、真っ黒な瞳はまるで、異星人。
彼が演じた二役それぞれに、どちらにもしっかりと存在するのが真っ直ぐさと優しさ。
だけど、それが全く違う形で表現される。
玄関のチャイムが鳴った瞬間、チビりかけるほど怖かった。

唐沢えりかさんは初めて観たけれど、なんというか、すごく収まりながら、ちゃんとはみ出ててくれた感覚。
麦がチャイムでゾッとさせるのならば、囲まれた円卓からただの一度も振り返りもせずに腕を引っ張り、淡々と携帯を投げ捨てる彼女純粋という暴力装置が、スクリーンの中で大爆発した。

考えてみれば、僕らはそれを心では拒みながらも、彼女がその狂気とも思える純粋を爆発をさせる瞬間を待ち望んでいたような気がする。

映画って、確かにそういうものかも。
現実では起きてほしくないことを、心のどこかで強く待ち望んでる。
それはまるで、ホラーと同じことだ。

追いかけっこを遠くから捉えるショットは、まるで悪夢のように美しかった。

そしてそれは、"今年は、邦画豊作とはいえ、黒沢清映画がないからな〜"とか思ってた僕に、こんな所で黒沢清みたいな映画に出会える奇跡を与えてくれたような気がする。

実は、伊藤沙莉as島春代(しまはるよって名前すげぇよ。島春代感すごいもん、沙莉)のLINEが好きだった。

"私はこうなると思ってたよ"


向かい合い、
愛をささやき合い、
抱きしめ合っているうちは恋。

汚い川に体を向けて、同じ方向を見つめたときに、愛が始まるのかもしれない。


P.S.
最近、渡辺大知が好きな作品にやたら出るので、バンドのくせになんか嫌だな、峯田くんみたいで嫌だな、って気持ちで食傷気味だったら、友達が
"安心して、俺たちが望む役柄だから"
と言ってて、どんな目にあうんやろ?と思って観てたら、画面に映った瞬間絶句。

これがくっそ不謹慎。
だけど、めちゃくちゃ笑ってしまったわ。


すんません。
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