ひろぱげ

寝ても覚めてものひろぱげのレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
4.0
偶然のきっかけで知り合った大学生の朝子と不思議な青年 麦(ばく)。一目惚れのような形で惹かれ合い付き合い始めた二人。しかしある日、麦は突然姿を消す。数年後。東京の喫茶店で働く朝子は、近所の会社に勤める亮平と出会うが、彼の顔を見た朝子は固まってしまった。亮平は、急に自分の前から居なくなった麦に瓜二つだったのだ。

とても質の高い映画だった。
写真展とか演劇とかの素材や、冒頭の出会いの瞬間、亮平と朝子の震災時の再会シーンなど、下手に扱えば安っぽい少女漫画のような、薄っぺらい恋愛映画のような臭い作品になりがちな要素が沢山あるのに、少しも陳腐にならない。そもそも、突然行方不明になった前彼にソックリな男に出会い、言い寄られるなんていう超ベタな設定がベースであるのに、むしろそれがいかにも映画的な、映画でしか表せない形で上質に描かれている。ストーリーの語り口の巧みさも素晴らしいし、脚本(セリフまわし)もとても良い。全てが自然に、無理なく、進んでいき、観客を引き込んでいく。
この監督のセンスというか力量はただ者じゃないなと思う。

対照的な二役を演じた東出昌大は、ナイスなキャスティングだった。麦はミステリアスでつかみ所の無いキャラクターで体温があまり感じられない(おれの東出くんに持っているイメージはこっちの方だ)。一方、関西出身の好青年亮平は、優しさというか心根の良さが至る所に滲み出ている(閉館間際の写真展で朝子達を助けるシーンや、大地震の後の座り込む女性とか「電車は全部止まってるぞ」という若者達への接し方など)。これは東出の地の雰囲気そのままなんだろうと思わされる。

終盤の衝撃的な展開はこの映画(物語)の肝であるし、見る者の様々な感情や考え方を刺激し、それぞれの受け止め方、感想、もっと言うと、恋愛観や人生観といったものを呼び覚まし、揺り動かし、ざわつかせ、気持ちに波を起こす。そして、河辺の疾走と雨が上がり雲の移動とともに陽が河原の草むらを照らしていく遠景ショット、そこからのラストシーンはセリフも画も奇跡的に素晴らしくて、乱気流を抜けた後のソフトランディングだったなあと思った。

濱口竜介監督、今後の作品がとても期待される。
ひろぱげ

ひろぱげ