月

寝ても覚めてもの月のレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
4.6
恋愛映画にみせかけたホラー映画。愛は多様だと色々な映画から学んできたが、愛に畏怖を覚えるのは初めてだった。
愛の対象が届かないとわかったそのとき、都合よく同時にその愛が消滅してくれるわけではない。対象Aを失い彷徨う愛は、今作ではA´に出逢ってしまうのだった。
愛は理不尽。対象をA´に移すものの、動いた根拠はといえば愛の持ち主本人にも分からない。AなくしてA´は存在し得ない。
だとすればこの愛の移動にはある種の妥協、あるいは諦めが伴っていることになる。
人間はA´だけでなく、Bだったりαを好きになることもある。だがBもαもまた、その前、あるいは裏に在るAが前提となって初めて存在する。絶対的なAが、常に存在しているのだ。
つまり、愛が複数存在していると本人が思い込んでいても、その愛は元を辿れば同じAが居て、その派生あるいは亜種に過ぎないということだ。
しかしながら、Aは絶対的ではあるが、常に絶対的勝者たりうるわけではない。それぞれの対象と接するうちに、見えなかった良さ・悪さが浮かび上がる。結果、「偽物」が良いと判断されてもなんら可笑しくないはずだと気付かされた。その選択は、残酷なまでに理不尽で、そして絶対的だ。
共感こそされにくいものの、人間の持つ非論理的な心理の揺れ動きを、狂気的に描ききっているこの作品は、そこらのホラー映画より畏れられるべきだろう。

寝ても覚めても、
愛は夢のまま。
月