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フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のjunのレビュー・感想・評価

3.7
前情報なしで観たので、初めこのカラフルなジャケ写が目に飛び込んできた時は一体どんな可愛い世界観の映画なんだろう✨と思ってワクワクしながら再生ボタンを押したのですが▶️
開始3分、そんな私の期待感は3人の子供が他人の車のボンネットに2階からツバを吐きまくるという衝撃映像を目撃する事であえなく消え去ってしまった。


確かにそこら中パステルカラーの世界で映し出される街並みもどれもおもちゃで出来ているみたいで目を引くものばかり✨
それもそのはず。
舞台となるのはフロリダのディズニーワールドのすぐ側のモーテル。
だけどそこはディズニーワールドには足も踏み入れたことがないような貧困層が暮らす安モーテル。
夢の国とは真反対の世界が広がっているのでしたーー




《以下ネタバレ含みます》








物語は常に子供目線で描かれます。
主人公は6歳のムーニー。ほぼ無名の子役さんのようですが演技が素晴らしかった👏子憎たらしさも可愛らしさも泣きの演技も演技とは思えませんでした。若い母親を演じたのは監督がインスタで探してきたという演技未経験の女性というから驚きました。だからか、よりリアルさが全面に出てくるのかもしれません。

そこで暮らす子供たちにとってはお金があろうがなかろうが関係なく、ただただ毎日が冒険の連続。一つのアイスを買ってわけあったり、空き家に侵入したり…。遊びたい時に遊びたい友達と自由に時間を過ごせるまさに夢の国。しかし大人目線だとそこは時に変質者が入り込んだり暴力事件が起こったり何かと物騒でとても子育てに向いている場所ではない。大人と子供でこれほどまでに見える世界が違うのかと実感しました。


母親のヘイリーは10代で母になり教養があるわけでもないし子供のしつけも出来ていない。定職も持たない上に夜遊びをしたり母親としての役割を果たしているかと言われればノーだろう。だけど、ムーニーに対する愛情だけは偽りがなく親子というよりは姉妹のように共に過ごす時間を楽しんでいたように見えた。

だから何も起こっていないのだとすっかり私まで子供目線になってこの映画を観てしまっていた。でもよくよく考えればそんなわけはないのですよね。親子2人が生きていくには現実的な問題が付きまといます。
偽物の香水販売だって警察に咎められてしまい収入源がないのだから…

マジックバンド?いつ盗んだ?
お風呂に入ってたら誰か知らない人が来たけどなに??

現実を突きつけられる終盤はズシっとくるものがありました。

どんな親でも子供にとってはかけがえのない存在。2人が引き離される瞬間は色々考えさせられました。決していい環境とは言えない。害もあるだろうし。だけど本当に親子を引き離す事がムーニーにとって最良の選択と言えるだろうか…

母との別れを感じ取りその場から逃げ出したムーニー。途中事故に遭うんじゃないかとヒヤヒヤした。そんな終わり方だけは絶対勘弁してくれと。

ジャンシーを訪ねた時のムーニーのあの表情。胸を締め付けない親はいないのではないかと思う。こんな幼い子にこんな悲しい顔をさせてはダメですよね…

最後は幼い2人が手を取り合いディズニーワールドの中をひた走る姿が映し出されて終わります。

観た方はこれをどう捉えたでしょうか。
チケットなど持っているはずはないのに。

まさにマジックエンド。
夏の魔法がかかった瞬間なのですかね。


エンドロール、何やら雑音のようなものが聞こえてきて思わず音量を上げてみましたがそこには夢の国を楽しむ人々の雑踏で溢れていました。

裏と表を同時に見た気分。

ムーニーにはこの負の連鎖を断ち切って強く生きてもらいたいな。
夢でも魔法でもなく、親友のジャンシーと大人になってから一緒にディズニーワールドに遊びに来る未来がきっとある✨
そう願わずにいられないラストでした。
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