HAYATO

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のHAYATOのレビュー・感想・評価

3.4
2024年197本目
“夢の国の近くでの貧しい暮らし”
先日閉幕した第77回カンヌ国際映画祭にて、ショーン・ベイカー監督の『Anora』がパルムドールに輝いたということで、同監督の代表作を見てみた。
2008年に発生したサブプライム住宅ローン危機の余波に苦しむ貧困層の人々の日常を、6歳の少女の視点から描いた人間ドラマ
定住する家を失った6歳の少女・ムーニーと母親・ヘイリーは、フロリダ・ディズニー・ワールドのすぐ側にあるモーテルでその日暮らしの生活を送っている。周囲の大人たちは厳しい現実に苦しんでいたが、ムーニーは同じモーテルで暮らす子どもたち共に楽しい日々を過ごし、管理人・ボビーはそんな子どもたちを厳しくも温かく見守っていた。しかし、ある出来事を機に、夢のような日々に現実が影を落とし始める。
ムーニー役にはフロリダ出身の子役・ブルックリン・キンバリー・プリンス、ヘイリー役にはベイカー監督自らがInstagramで発掘した新人・ブリア・ビネイトを抜擢。ボビー役を『哀れなるものたち』のウィレム・デフォーが好演。
ポスターやタイトルからはどんなストーリーなのか全く見当もつかない映画だ。タイトルの「フロリダ・プロジェクト」とは、ディズニー・ワールドの開発段階における名称だそうだが、ディズニー・ワールドの話ではなく、その外側のモーテルを舞台に、社会の片隅で生きる人々の日常が淡々と綴られていく。
始まってすぐに目につくのは、活発な子供達の姿と彩り鮮やかな世界観。カラフルな建物を背景にひたすらはしゃぐ子供たちは楽しそうだが、貧困に苦しむ家庭環境が影響しているのか、彼らが悪事を続けてしまう姿を見るのは辛かった。
ベイカー監督は『タンジェリン』で撮影にiPhoneを使用したことで注目を集めたが、本作の撮影には35mmフィルムカメラが使用されている。ベイカー監督曰く、パステルカラーに包まれた世界観を具現化する効果を期待してということだそうだが、確かにフィルム特有の質感と温かみは本作にぴったりな気がする。
マジカルなラストシーンは、唯一35mmフィルムカメラをiPhoneに持ち替えて撮影された場面。案の定無許可で撮影されたものらしい。不思議な余韻を残すエンディングだった。
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