カタパルトスープレックス

朗かに歩めのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

朗かに歩め(1930年製作の映画)
3.7
戦前に小津安二郎が手がけたギャング映画です。ヤクザ映画ではなく、ギャング映画。

小津安二郎監督の特徴の一つは「小津好み」です。小物や衣装に自分の好みを反映させます。戦後の「小津好み」も和服や小物など自分の好みの品を小道具として使ったことで有名です。戦後に洋服が主流になっても和服を使い続けました。戦前の「小津好み」は戦後と全く違って、アメリカンです。戦前も戦後も実際の日本人像とはかけ離れたファンタジーを描くのが小津安二郎監督の特徴の人となんです。

本作は戦前の小津安二郎監督のアメリカンな「小津好み」を色濃く表している作品です。ストーリーは堅気の娘に惚れたヤクザものが稼業から足を洗うというクラシックなお話です。しかし、ここで登場するヤクザものはどちらかといえばアメリカのギャング。日本のヤクザとぜんぜん違います。ですから、本作はヤクザ映画ではなく、ギャング映画なんです。

ファッションからクルマ、部屋のインテリアに至るまで。すべてアメリカンな「小津好み」で埋め尽くされています。

本作の脚本は小津安二郎の盟友の清水宏。『大学は出たけれど』もそうですが、どことなく清水宏監督作品っぽさがあります。松竹蒲田時代、小津、清水、そして伏見晁は仲が良かったようですね。三人でアメリカンな「小津好み」の世界を作り上げていきます。

内容としてはどうということない話ですが、キャラクター造形も含めて初期の小津安二郎作品の中でこの作品が大好きなんですよねえ。