CHEBUNBUN

ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリスのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

4.0
【データを残す、データを活かす】
フレデリック・ワイズマン渾身の3時間ドキュメンタリーが岩波ホールで公開された。5月は楽しみな作品がなかっただけに、2時間前から並んで観ました。朝っぱらから宗教勧誘に遭い、ムッとなるものの(最近本当についてない。厄年かな?)、職業柄本作で描かれる《アーカイブ》に対する精神に惹き込まれました。

本作は、美術館の運営に迫った『ナショナル・ギャラリー』と合わせ鏡の関係にあるのですが、『ナショナル・ギャラリー』以上に、対象を広域平等に扱うことで、我々にインスピレーションを与えてくれます。

それは、冒頭で「ユニコーン」について訊かれ、アカデミックに応える職員と貸し出し制限を食らっている人やスペイン語使いの人の対応に追われる職員を対比させたり、スマホで書籍の内容を隠し撮りする人を捉えてたりすることから分かる。

そして、縦横無尽に棟を行き来し、図書館のinside/outsideを駆け抜け、そのまま図書館前のパレードで、普通の監督ならカットするであろう映ってはいけないものまで捉えてしまうワイズマンの80歳をゆうに越えながらも衰えぬ切れ味に圧倒される。

本作は、あまりに多くのエピソードがあるので、ここではお気に入りのショット、というよりかはブンブンが受けたカルチャーショックについて語りたい。

日本では、働く時にはスーツを着る。また、人の話を聞く時にはスマホなんか出さない。しかし、本作を観ると自由過ぎるアメリカのライフスタイルに驚愕します。

まず、講演会中にもかかわらず、最前列で編み物をしているばあちゃんがいたり、スマホで遊んでいたりする人がいるのだ。ブンブンも大学時代は一番後ろの席でレゴをしながら授業を受けたことがあるのだが、編み物をがっつりしながら、ホゥホゥと話を聞くおばあちゃんのメンタルが強すぎてびっくらたまげました。

また図書館員は私服の方が多く、中には民族衣装のような服を着ながら、何を仕入れるのか?民間企業とどう関係を結んでいくのか?はたまた、図書館に来るホームレスの対応について議論する方がいたり、はたまた本の仕分けを音楽聴きながら行っていたりします。

そして、この作品では図書館は本を揃えていく場所ではないと力強く鑑賞者に訴えます。図書館はDATAを集める。DATAは、加工して価値を持ち始めてINFORMATIONとなる。データはアーカイブするだけでは意味がなく活用してなんぼであり、図書館は市民に活用の場やソリューションを提供するものだということがわかってくるのです。

だから、ニューヨーク公共図書館では、職業セミナーが開催され採用活動が行われたり、チャイナタウンでは中国移民に対してパソコンの使い方を教える。他にも点字やプログラミング教室が開催されたり、孤独な黒人の拠り所を作ったりする。割と日本では、図書館を単なる巨大な本棚としか考えておらず図書館司書の扱いも酷かったりする。しかし、図書館は美術館以上にDIGITAL DIVIDE(情報格差)から市民を救うセーフティネットとして多角的に活動する必要があることが分かります。今やITの発達で、Google先生に聞けばなんでも分かるが、Google先生が教えてくれない情報を使ったソリューションを図書館が教えてくれるのです。

これは必見。確かに3時間は長いし、難しい話題の時は睡魔が襲うかもしれませんが、観て損はありませんよ!
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