ストレンジラヴ

地獄の天使のストレンジラヴのレビュー・感想・評価

地獄の天使(1930年製作の映画)
3.0
「人生は思い通りには運ばん」

第一次世界大戦に従軍したパイロットの葛藤を描いた作品。監督は大富豪ハワード・ヒューズ。「アビエイター」(2004)のレオ様である。
はっきり言おう、映画として観るならば死ぬほどつまらない。ストーリーは凡庸なうえに、プロの映画監督が撮影しているわけではないのでブツ切りの映像を繋ぎ合わせただけで学芸会レベルでしかない。だが僕は本作を全編通して観られる日がくることを切望した。
では何を目的として観たのか?今回僕は「映画ファン」としてではなく「ヒコーキ野郎」として本作を観た。ヒコーキ野郎として観るならば、本作はとてつもない映像遺産だ。なんせ本作は製作過程がぶっ飛んでいる。まず、登場する航空機は第一次世界大戦で使用された実機だ。それらは全て本作の撮影のためにハワード・ヒューズがポケットマネーで買い取ったものだ。その数実に87機。で何をしたか?(機銃は撃たせなかったが)撮影のために本当に空中戦をさせた。結果として撮影中の事故で3名が死亡し、自身もパイロットであったハワード・ヒューズも墜落事故を起こして眼窩前頭皮質を損傷した。一説にはこの時の負傷が原因で後年奇行が目立つようになったと言われている。
さらに驚く勿れ、こんなことをしていたもんだから撮影期間は延びに延びた。そうこうしているうちに時代の主流はトーキーへと移行してしまい、ただでさえ金をかけて撮影した分を改めてトーキーで撮影し直すことに。これにはデミアン・チャゼルも真っ青である。
そんなもんで製作費がかかりすぎ、そこそこヒットしたものの当然費用回収はできなかった。ボンボンの道楽恐るべし。
つまるところ、本作は大迫力の空中戦を撮影したいというハワード・ヒューズの自己満のために天ぷらの衣の如く申し訳程度の人間ドラマを取ってつけただけなのだ。だからハワード・ヒューズのオーガズムに「ヒコーキ野郎」として乗っかるのが多分最適解であり、最初にことわったように、映画として観てしまうと本当につまらない。だが100年前の戦闘機の機動を確認できる点では、確かに映像遺産です。