しゅんまつもと

ビール・ストリートの恋人たちのしゅんまつもとのレビュー・感想・評価

4.0
ムーンライトが蒼の映画だとしたら今作は間違いなく「黄色」の映画だ。
その黄色は時に「私たちはここにいる」という声をささやかにあげてみせたり、時にひどくつらい現実のなかに垣間見える希望の象徴として現れる。

或いは、音楽の存在。二人が交わるときにはレコードに針が落とされる。しかしときに彩りのための音楽は逆回転し、分断されて、不穏に空気を歪ませる。

見た直後は巧いなぁとは思ったものの、突き抜けて好き、とも言えなかったのだけど、ふと思い出して、じわじわとこの映画のことが好きになってきている。
その理由はやはりこの映画が些細な「生活」の映画だからだろう。どんなにつらい状況にあってもティッシュは食卓についてごはんを食べるし、慣れないお酒に顔を歪めたり、仕事だってする。たとえどんなに絶望する状況でも、決して豊かな生活が失われるわけではない。いや、豊かな生活を諦める理由にはならないのだと思う。
彼女や彼や、彼らの家族がそれを諦めなかったから、あのラストシーンに繋がるのではないか。そりゃあそこが楽園だなんてことは到底思えないけど、それでも彼らが掴んだ一つの結晶だと想うと、とても胸がいっぱいになる。