つるみん

スリー・ビルボードのつるみんのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.0
さあ今年もアカデミー賞授賞式が近づいてきましたね。既にノミネート作品が発表され、作品賞最有力候補と言われている本作を鑑賞して参りました。

率直な感想を先に言いますと、これ脚本賞は確実ってほど秀逸でした。これで違う作品だったら恥ずかしいですけど、僕はこの脚本に賞を獲らせたい!

別に度肝を抜くようなサスペンス性もないし、役者が声を荒げて演出上盛り上がるシーンもない。人種差別を軸にウィットに富んだブラックユーモアがズバ抜けて良い訳でもない。ただ前半から後半にかけてのストーリー上の〝緩急〟と登場人物たちの〝変化〟が非常に素晴らしい。変化とは突然変異でも無ければ必ず過程がある。その過程が丁寧に順序良く描かれているからこそ、その〝変化〟の効果は絶大なのだ。

この世に生きる人間に絶対的な悪人も完璧な善人も存在しない。善悪とは表裏一体であって、そこに漬け込み利用したマーティン・マクドナーは流石。確かに劇中、人種差別、性的暴行についての話はあるが実際にストーリーの軸となっていたのはこっちの方。人間っていうのはその様な一面があるから、そもそも人種差別や性的暴行が生まれる。もっと根本的な部分を描いている。善悪の境界線というものはあるのだろうか…。

そして役者陣の演技力の高さ。
主演であるフランシス・マクドーマンドを筆頭にウディ・ハレルソン、サム・ロックウェルなど演技力があるのは言うまでもない3人だが、やはり本物の役者は声で、目で演技をする。その演技力が試される場面は随所にあり、我々はその場面ごとに圧倒される。

あと1つ書き留めておかなければいけない事は本作を彩る様々な〝赤色〟。マーティン・マクドナーは北野武を参考にしたと言っている。バイオレンスの中に見え隠れするブラックユーモアに加えキタノブルーならぬマクドナーレッドが印象的な映画であったのは間違いない。看板、血、花、炎etc…。映画らしい終わり方も嫌いじゃない。

ただ超えてくるものは無かったというのが素直な感想。脚本、役者陣は文句なしだが何か決定打となるシーンがなかったのか、はたまた演出上の問題なのか。今のところはこの点数。もう一度観てみよう。
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