ブタブタ

スリー・ビルボードのブタブタのネタバレレビュー・内容・結末

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

冒頭、警官がフラナリー・オコナーの小説『善人はなかなかいない』を読んでいる。
この小説が『スリービルボード』という作品の世界観を表していると、町山智浩氏がタマフルの解説で紹介してました。

フラナリー・オコナーの小説は日本では長らく絶版でプレミア状態でしたが先頃ちくま文庫『フラナリー・オコナー全短篇・上下』が復刊されましたので読みました。

上巻収録の『善人はなかなかいない』『田舎の善人』がアメリカの田舎、郊外、特に南部の根深い人種差別や宗教感、閉鎖的な田舎の理解し難いルールや日常に突然やってくる死や暴力など『スリービルボード』を見る上でとても参考になりました。

スリービルボードを一言で言えば
「善人はなかなかいない、しかし確かに善人は存在する」
でしょうか。

『ファーゴ』の主演女優フランシス・マクドーマンド演じる主人公や音楽にコーエン兄弟作品を手掛けたスタッフがいる事等、コーエン兄弟作品『ファーゴ』『ノーカントリー』に監督は違えど、そのテーマも同じ世界観を共有する作品だと思いました。

しかし上記二作と違うのは、これは「寓話・神話」を描いているのではなく「現実」を描いている事。
殺し屋シガーや間抜けで狂った二人組等のカリカチュアが登場しない事。

ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)の兎に角強くてかっこいい立ち姿と強靭な意志はまさに「女クリント・イーストウッド」でアメリカ的正義の体現者としてイーストウッドを継ぐ者はフランシス・マクドーマンドしかいないと思います。

しかし正直自分が見たかった物ではありませんでした。
『ファーゴ』『ノーカントリー』と同じくミルドレッドと殺し屋シガーの様な「絶対悪」との対決が見れると勝手に思い込んでいた自分が悪いのですが。

ジェイソン(サム・ロックウェル)が突き止めた男が犯人でなかった時点で「あー真相は謎のままか…」
と思った事。
ラスト、軍人のレイプ魔(?)を二人で殺しに行くとなった時、
「あー殺す所までいかないなー…」
と思った事。
別に全ての真相が明らかになる必要はないのですが(ミステリーじゃないし)個人的に映画・ドラマ・アニメなどで終わり近くになって
「あーこれで、このまま終わるんだなー…」
と結末が見えてしまった時の寂しさとガッカリ感。
これはエヴァンゲリオンTV版最終2話の時も同じ気持ちだったのですが、謎は謎のままクライマックスもカタルシスもなく終わりに近づいて行く時の消化不良と不完全燃焼感を感じてしまうともうダメでした。
残念ながら。

ピーター・ティンクレイジは相変わらずいい。
その体格に関係なくもう存在自体が。
フランシス・マクドーマンドとピーター・ティンクレイジが二人揃ってる「絵」がとてつもなく映画的な「嘘」と「美」に溢れていて(ファンタジー世界の女クリント・イーストウッドと従者、女ドン・キホーテとサンチョ・パンサの様で)この二人が外からの「悪」と戦う「現代アメリカの神話」が見たいと最後の方は妄想していたのでした。
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