Taketo

スリー・ビルボードのTaketoのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
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まず娘を失った母親が3つの看板に広告を載せるという設定が良い。今までの映画にはなかった設定であり、かつ実際の事件として絶妙にありえそう。
そして、見ていて非常に展開が美しい脚本だと感じた。看板の広告を引き金にそれぞれの人間が起こす行動が必然的で無理な展開が無いように思う。それはよく分からない奴が働いているギフトショップに押しかけてきたり、看板の事をよく思わない人間が警察署に電話してきたりといった端々のキャラクターから、所長が亡くなった後のサムロックウェルの行動と言ったメインのキャラクター達まで。特に中盤で彼がが起こす行動は常軌を逸している。しかし、そこまでに描かれた40過ぎにも関わらず母親と暮らしており、キレやすく、チーフに対しては異常な信頼を寄せているという彼のキャラクターにより違和感を感じる事はなかった。現実的には無さそうな行動を起こすとリアリティラインを越えやすいと思うがなんの違和感もなかった。
また、僕はサムロックウェルが凄く好きで、彼は基本的にどの作品でもだらしなく、やる気のない役をやっている。今作も変わらずクズで惨めな役で、観客から嫌われそうなものだが、そんな彼ですら嫌いにさせず、どこか自分を被させてしまう惨めさがあるのも脚本のうまさなのかなと思った。サム・ロックウェルは「キャメロット・ガーデンの少女」「コンフェッション」以降大きな賞に選ばれていないので、今回オーストラリアアカデミー賞助演男優賞受賞は凄く嬉しい。彼の少し前かがみになった歩き方でレッドの元に行き、一切の躊躇なくレッドを二階から落とす演技などが凄く好きだったので、是非アカデミー賞もとってもらいたい。

子を失う母親という意味では最近見た「チェンジリング」を思い出した。「チェンジリング」でのアンジェリーナ・ジョリーは
怠慢なLAPDにも丁寧に接っしていた。対して今作のフランシス・マクドーマンは子を失ったことから怒りと復讐心を持ってしまう。彼女の怒りの象徴が3つのビルボードであり、それを発端に周囲の人間を怒らせ傷つける。
憎しみは憎しみしか生まない。憎しみの連鎖を起こさない為には誰かが我慢しなければならない。それは病院でレッドがサム・ロックウェルにオレンジジュースを与える行為が物語っており、誰もがそれは難しい選択であることを痛感する。
しかし、フランシスマクドーマンはあいかわらずそうもいかず、どこまでも怒りの矛先はズレていく。本来は警察署に火炎瓶を投げ込んでいる場合ではない。
ズレにズレた怒りの矛先は事件とは関係ない別のレイプ犯へと向かう。その決意は今までとは違い迷いがあり、見ているとようやく復讐なんてどうでもよくなったのかなと思えた。そう言った意味で今作は怒りとそれが浄化するまでの映画なのかなと思った。
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