ヒロ

スリー・ビルボードのヒロのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.5
暴力には2種類ある。言葉の暴力と身体の暴力ではなく、男性的暴力と女性的暴力でもなく、内からの暴力と外からの暴力。他者発信の外からの暴力を事前に止めることは出来ないが、その外からの暴力が自分というフィルターを通過して生成される内からの暴力を制御することはできる。どうしようもない他者のため自らを傷つけることによって。言わばこのスリー・ビルボードとは未変換の外からの暴力に対する防衛本能と変換済の内からの暴力に対する責任の放棄の具現化であると思った。他人の不幸は蜜の味とばかりに集ってくる害虫のようなメディア、その害虫が創り上げた数字狙いのフィクションを鵜呑みにする思考の停止した群衆、神の御名の下アーメンと弱者を蝕むチープなシープ、主体を離れざるを得なくなった燃え盛る暴力の炎の中に天使の仮面を被った悪魔たちが意図的にまた偶発的に薪をくべ油を注ぐ。そんな暴力の炎を鎮火するものは水でも粉末消化剤でもない、決して手に入らない時間と希望。手段を失った彼らに残された道は灰になるまで燃え尽きる、ただそれだけ。こうした今も世界のどこかで人知れず暴力は生成され続けている、赦しの供給が間に合わないスピードで。今作はこの世に蔓延る暴力のメカニズムに対する婉曲的取扱説明書である。
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