けーはち

スリー・ビルボードのけーはちのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
3.6
ミズーリの片田舎。愛娘をレイプされ殺された中年女性が一向に進展しない警察の捜査に業を煮やし、道端に警察署長を名指しで煽る広告(ビルボード)を掲げた。

それをきっかけに田舎の男尊女卑やら差別問題を告発して、警察やマスコミ、女性世論に火がついて大暴れ、フェミニズムを鼓舞する勧善懲悪劇になるんかな、と思っていたら、警察署長が「実はワシ癌で死ぬねん」とか言い始めて、オバちゃんも「知っとるわ」みたいな話になって、「えー、そうくるの?」となる。

鄙びた夜道を歩く娘の身に起きた事件。そもそも目撃者や証拠のなさは、警察の非ではない。事件前、主人公は娘と仲が悪く、夜中に口論し追い出しており、むしろ彼女がその状況を作ったとすら思える。それなのに余命短い署長を追いこんで警察に睨まれ家族や世間に叩かれ居直る主人公のオバちゃんが身勝手にすら感じてくる。

そこが巧妙で、主人公を何事にも動じない愛と信念の人として描くのは簡単だが、彼女もまた迷い苦しみ、別属性へ差別、そしてまた犯人にも自分にも、やり場のない怒りを向けている。誰も完璧ではないのが重要。人間の中にある、やましさ、憎悪、後悔、そして許しといった感情のドラマと、差別や正義といった社会風刺的なテーマの中に、先が読めないサスペンス要素がズンズン積まれた、娯楽人情活劇。

ただ署長はともかく、メインで動く警察官があまりにも暴力的、下劣なレイシストで(終盤改心するのが話の焦点であるとはいえども)無辜の市民にすらめちゃくちゃをする彼を野放しにしてる上に、主人公周りの事件を全スルーしちゃう警察は流石におバカちゃん過ぎるので、警察周辺は話の御都合というのが目立つかな。