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スリー・ビルボードのmacotoのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
3.9
ブラックユーモアと言う単語が、メイキングにも出てきたが、今まで見てこなかったタイプの映画だ。感想が難しい。

フランシス・マクドーマン演じるミルドレッド・ヘイズは、娘をレイプされた上、焼死させた残虐な事件の犯人が、まだ捕まらないことに業を煮やしていた。
そこで、殺害現場でもある町外れの三枚の看板に、町の警察署長を批判するメッセージを張り出したことから、静かな町に波紋を呼ぶ。


大きな不幸を背負うことになったミルドレッドの憎しみの矛先が署長に向けられた時、憎しみの連鎖は町中に広がっていく。
なぜなら署長は、末期の癌を患い、住民からも慕われた人格者だったから。
悲劇の母親であるはずのミルドレッドの行為は住民からの非難を浴び、署長を慕い尊敬している部下、ディクソンの恨みを買う。

だが、この純粋故にキレたら何をしでかすか分からない、悪名高い警官ディクソンは、以外にも物語のキーマンであり、
ガンを悲観し自殺した署長の遺書により、改心したディクソンを通じて、罪と罰の連鎖は、大きく流れを変えることになる。

私が一番好きなシーンがある。
さりげなくて、稀に見る名シーンだ。

入院したディクソンは、偶然にも署長の死に憤慨し、自身が大怪我を負わせた広告代理店の社長レッドと同室に。

ディクソンは謝罪する。

レッドは、ディクソンへの怒りで悔し涙を零しながらも、憎しみの感情を押し殺し、
大火傷を負ったディクソンのために、
ジュースを注ぎ、そっとストローを向ける。


その後ディクソンは、犯人と思われる男を命がけで追い詰め、ミルドレッドにも報告するも、DNA判定の結果、人違いだと分かる。
一度は自殺も頭に浮かんだが、犯人ではないにしろ、その男の罪は重い。ならばと、ミルドレッドを誘い、その男を殺すため、アイダホへと向かう。

その道中、ミルドレッドは自身が警察署を放火したことを告白すると、ディクソンは「あんた以外誰がいる?」と返答する。

そして、男を殺すことについては、お互い「気が乗らない」と笑い合う。心を通わすディクソンとミルドレッド。

「殺すかは道々決めて行こう」と車は走り去っていく。




ミルドレッドの行為は激しさを伴い、非常識だが、ディクソンの反撃も常軌を逸している。そして、因果応報のルールを律儀に守るのがこの映画の特徴だ。

人を憎むのは、あまりにも容易だが、
ひとを許すのは本当に難しい。
故に、人を許す時、
登場人物は多くを語らない。

ディクソンは、ミルドレッドの気持ちに真正面から向き合った時、人間的な成長を果たす。


この映画、ディクソン役のサム・ロックウェルが素晴らしい。

寂れた町の警察署によくいる、人種差別主義の保守的なチンピラ警官を、驚くほどうまく演じ切り、署長の遺書と大火傷をきっかけに、異彩を放ってくる。


この役者さんを追っかけて映画を辿りたくなった。
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