自分のレビューを振り返っていて、横溝正史の金田一耕助が登場する映画は、ほとんど全て(昔の片岡千恵蔵版とかはさすがに追っていないが)レビューしているにも関わらず、本作だけ完全に忘れていた。市川崑監督作品なのに。
なぜだろうと考えたが、その前に本作の内容を覚えていなかった。もちろん、有名な原作だし、ストーリーはそらで言えるくらい把握している。でも、本作の印象は非常に薄い。
原作は、松竹の野村芳太郎監督版(金田一役は渥美清)はもちろんのこと、テレビシリーズの古谷一行版でも映像化されているし、稲垣吾郎版、吉岡秀隆版もある。しかし、本作の印象が一番薄いのである。
豊川悦司の金田一役は悪くない。「12人の優しい日本人」で初めて認識し、最近では「地面師たち」の演技も記憶に新しい。名優だと思う。ところが、本作での演技はほとんど思い出せない。
本作より記憶に残っているのが、第19回日本アカデミー賞で、豊川氏が岩井俊二の「Love Letter」で助演男優賞にノミネートされた際、今、自分が「八つ墓村」で金田一耕助役を演じ、撮影中であることをアピールしていたこと。(岩井俊二監督も市川崑の金田一シリーズのファンで「本陣殺人事件」を共同演出するプランもあったとか)
翌年の第20回日本アカデミー賞では、豊川氏は本作で主演男優賞にノミネートされた。しかし、前年の熱が冷めていたのか、発言に思い入れを感じず、ただ市川崑監督に向けて「楽しかったです」とコメントしていたことを覚えている。(ちなみにこの年の最優秀主演男優賞は「shall we ダンス?」の役所広司だった)
市川崑監督は、本作の企画当初、金田一役に石坂浩二を想定していたらしい。しかし、東宝側から新しいイメージを求められ、豊川氏を起用したとのこと。
豊川氏には失礼なのだが、もし、本作の金田一役が石坂浩二氏で、オープニングタイトルもいつもの明朝体であれば、印象はずいぶん違っていたのかもしれない。
どうしても、野村芳太郎版と比較されるが、あれは「八つ墓村」の原作設定を借りたホラー映画であり、小川真由美の化け者メイクも含め、やや「反則」の感もある。もともと比較は難しい。あのせいで本作の印象が書き消されている。
と、思ったところで、松竹版「八つ墓村」のレビューをしていなかったことに気づいた。
しまったー!(金田一風)