HARUSUI

去年の冬、きみと別れのHARUSUIのネタバレレビュー・内容・結末

去年の冬、きみと別れ(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

観たい映画リストの一作品。予告編を観てリスト入りしたのだと思いますが、すっかり忘れて、あらすじ情報なしのまま観賞致しました。
邦画のミステリーで、ここまでクオリティが高い作品に、久々に出会いました。
原作がある映画ですが、短時間によく沢山の小細工をばらまき、そしてすべての回収をしたと感心しました。
大きなどんでん返しは、ないです。想像できる範囲の主軸があり、先述した小細工が多いこと。気付かず種明かしまでといったものも多かったです。
そして、最後まで見終わった後の感情を、どう表現するべきか。悲愴、悲哀、切ない。語彙力の限界を感じますが、多分、やるせない、が一番の感想かと思います。

まず、冒頭。主人公は雄大だと勘違いをしました。異常な姉弟愛のなか罪を逃れて生きていく物語なのかと。
シーンが切り替わり第二章の字幕が出現します。あれ?第一章ってあったかな?
とある編集部に持ち込み原稿あり、デスクと持ち込んだフリーのライターが登場します。ここでも、この二人が主人公の雄大を追い込んでいくのかと、まだ勘違いをしたままでした。
結局、突如、
「10月に結婚をする、好きなことができるのは今だけだ、」
のようなセリフを言う、フリーのライターに怪しさを感じ、ああこれが主人公か!と納得致しました。
取材をして新情報を掴み、ゴリゴリと売りにくるフリーライターのヤクモ。
しかも氏が耶雲という漢字って何者?
そしてもう一人、雄大の記事に後ろ向きなデスクの小林。後ろ向きというより、雄大の記事を握りつぶしたい様子。理由は元刑事さんの証言で察することができました。
ヤクモは雄大に近づき密着取材をします。なんでも他人のものを欲しがる雄大に、ヤクモは恋人の存在をちょいっと匂わせてしまうのですよね。これで10月に結婚する彼女が危なくなるじゃないとハラハラしました。しかし、ちょっとした違和感がずっとありまして。
ヤクモは基本的に他人に対して挑発的な雰囲気を醸し出しているのですが、恋人の百合子の尻にすでにひかれているというシーンが1シーンだけあります。とても奇妙な印象を与えるのです。この人、本当に結婚するんだ…へぇ〜…のような。
そして、百合子と二人のシーンでは、ヤクモが 分かるか分からない程度に冷たい、という謎。
雄大の姉、朱里と小林の関係は想像できました。赤い謎の薬物を服用してイチャイチャ終了後、暴走した朱里がヤクモに会いに行きます。溺愛する弟を守るために狂気を宿す朱里。ヤクモ気をつけて!と思う間もなく、翌朝、普通に雄大の家に歩いて向かうヤクモさん。
何が、何が2人にあったのだろう。あの朱里が、大人しくヤクモを解放するわけはないはず。結構、観ている側をグイグイと引き込みます。
そして、嵐の前の静けさ。誰も動かず、相手の動向を様子観察。最初に動いたのは雄大でした。ほら、言わんこっちゃない。百合子ちゃん雄大の餌食ですよ。ヤクモ、泣いて喚いて、警察駆け込んでもダメ。そして、あなたも何かあるでしょう。ヤクモの表情がそこまで動揺していないのです。
第三章。ここで、なんとなく気付きました。これは、出版される本の章なのかと。本を売るつもりで、今までヤクモは暴走してきたのだろうか?百合子ちゃんを犠牲にして?
最後の事件が起きます。火事、そして姿を一切見せない朱里。ヤクモは本を書き上げます。ヤクモの正体もわかります。
序章の文字が入ったときに、あー!と思いました。やはり、視聴者は第二章から観ていたのだと。そして、証言者達の服装と現在進行形の季節が合っていないことに今さら気付く自分。小細工の回収が始まります。
ヤクモが復讐に至るまで、そして今でもなお、恋人だった亜希子だけを深く愛していること。
百合子ちゃんがお金で雇われた協力者で良かった。偶然に知り合い、恋をして、婚約者となったとかであったら、百合子ちゃんの人生がこんなに悲惨なことってある?というヤクモ鬼畜論が展開されるところでした。
ヤクモが百合子に報酬を渡し
「そして、生きろ」
と言いますが、自分も思わず、それはあなたもね、と祈ってしまいました。この手は、復讐遂げて自殺するパターンだと思いました。ラスト、タイトルの意味があきらかになり、ヤクモの、これは死んだ亜希子を見つめちゃってるのだろうなぁという表情でエンドロール。
小説のラストでは、最後がどうなったのかは不明ですが、映画を観る限り、あれは亜希子を追いかけるのだろうな…という感想です。

もう、本当に辛い。やるせない。
しかし、とてもひきこまれる作品でした。

俳優で売り出したわけではないだろうに、岩田さんの演技は素晴らしいと思いました。
朱里の狂気、雄大の異常を表現した浅見さんと斎藤さんも上手です。
小林さんの動揺を徐々に大きく演じた北村さんは、ベテランらしく安定の演技です。
あとは、百合子役の山本さんがもう少し影ある部分と表面の明るさのメリハリができたら良かったのになぁと自分の勝手な意見です。
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