MasaichiYaguchi

コンプリシティ/優しい共犯のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

4.1
第19回東京フィルメックスのコンペティション部門で観客賞を受賞した近浦啓監督の長編デビュー作は、技能実習生制度や不法滞在者の就労問題という社会派的な題材を扱いながら、描かれているのは家族ドラマであり、アイデンティティーを確立しようともがく青年の成長物語でもある。
本作は日本・中国合作で、邦題は「コンプリシティ(共犯)」なのだが、原題は主人公の本名を表している。
主人公はある事情で偽名を使わざるを得なくなり、他人に成りすまして地方の蕎麦屋で住み込みで働き始める。
偽名リュウ・ウェイを使う中国人青年を「孔雀 我が家の風景」のルー・ユーライが日本語は勿論、蕎麦打ちまでこなして演じている。
そして蕎麦屋の寡黙な老店主・井上弘を藤竜也さんが演じているのだが、丹精込めた蕎麦のように滋味深くて心の琴線に触れてくる。
この映画では二つの家族のドラマが展開していく。
一つは主人公の中国人青年が技能実習生として来日するまでの河南省での病弱な母と祖母との日々、そしてもう一つが潜り込んだ蕎麦屋での店主・弘とその娘・香織との共同生活。
そこで紡がれるのは“絆の物語”。
河南省での家族とのものは血の繋がりによるものだが、日本におけるものは青年の誠実さや真摯さよって雇用関係というより師弟関係、更には擬似家族的な関係性の中で築かれていく。
だが、たとえ平和で楽しくても偽りの日々はいつかは綻びて破綻する。
思わぬアクシデントから発覚してしまった偽りは、彼らにどのような結末をもたらすのか?
社会が分断され格差や隔離が進む中、この作品はそれに抗い、乗り越えようとする人々を、ある青年が本名を取り戻していく物語を通して描いている。